北見市医療福祉情報連携協議会(北海道北見市):医療・介護機関の情報共有・連携ネットワーク運用を開始

FileMakerをプラットフォームに低コストで拡張性の高いシステム目指す

2012/10/31 12:00
増田克善=医療ITライター

 北海道北見医師会や北見市社会福祉協議会などが中心となって設立した北見市医療福祉情報連携協議会は、市内の医療機関、介護施設、地域包括支援センター、行政がそれぞれ持つ患者情報を共有・連携するICT基盤「北まるnet」を構築。9月から実証事件を開始した。プラットフォームの中核にFileMakerを採用している全国的にも珍しい地域医療・介護情報連携ネットワークである。


 人口12万5000人の北見市はオホーツク圏最大の都市。東西110キロに及ぶ広さで、中核病院をはじめとする医療機関は北見自治区に偏在している。医師不足のうえに高齢化率も26.4%と高く、限られた医療資源を有効に活用した体制づくりが急務となっている。また、救急医療や慢性疾患患者が増大する中で、受け入れ施設の不足、在宅生活支援に伴う関係機関の連携不足などが、これまでも関係者から叫ばれてきたという。

古屋聖兒 氏
北見医師会会長・北見市医療福祉情報連携協議会会長の古屋聖兒氏

 こうした課題の解決に向け、「従来縦割りであった保健、医療、福祉の横のつながりを強め、北見市民が安心して暮らせる共生社会の再構築が必要不可欠。それを支援するために、さまざまな医療や介護の情報を厳格な管理下で、医療・介護にかかわる多職種による相互に有効活用できるシステム連携基盤が必要でした」。北見医師会会長 古屋聖兒氏(古屋病院長)は、北見市医療福祉情報連携協議会の発足と北まるnet構築の経緯をこう語る。

医療情報共有と介護福祉分野の共有情報の利活用を当初目標に

 連携協議会は2011年7月に発足した。ICTの活用をベースに、「北見市の医療介護資源の最大活用」「医療介護における地域包括ケア体制の構築」「市民自身による主体的な健康増進への喚起」を使命に掲げている。会長は北見医師会会長の古屋氏が務め、市内の基幹病院を含む医療機関、介護保険事業所、北見工業大学(保健管理センター他)、北見消防署など17団体45人で構成されている。

 事業目標には、健康医療情報共有のための情報基盤の構築、その上での地域連携クリニカルパスの運用、健診データ管理、脳卒中・糖尿病・CKD(慢性腎臓病)・COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの慢性疾患における診療連携のためのデータ管理、介護福祉分野での共有情報の利活用、救急医療における共有情報の利活用、お薬手帳・処方せんの電子化、薬局での服薬指導に関する共有情報の利活用、などを挙げている。

 特に、地域医療連携推進のためのシステム基盤構築に加え、当初から介護分野での情報共有、医療機関との情報連携の仕組みを確立することを重視した。その背景には、退院時に病院の医療ソーシャルワーカーからケアマネジャーへの情報提供するケースは約4割で、半数以上の患者の情報が伝えられないまま介護に移行する現状があったという。「昨今、医療と介護の連携がいわれているものの、情報共有を含め連携不十分の実態があります。そこに問題意識を強く抱いた北見医師会メンバーがおり、医師会としても積極的に支援していこうという気運が生まれました」(古屋氏)と述べる。

 こうした経緯を踏まえて、連携協議会では初年度の事業として、健康医療情報共有のための情報基盤の構築と利活用、介護福祉分野などの共有情報の利活用の仕組みを先行させた。具体的には、(1)医療・介護情報連携のためのネットワークシステムの構築、(2)介護情報共有システム(主治医意見書、介護認定調査票の電子化)構築、(3)介護認定審査会のペーパーレス化とWeb会議化、(4)要介護者・要援護者・社会資源データベースとマップ構築に着手した。システム面では、医療・介護情報連携データベース、要介護者・要援護者マップ/社会資源データベース、介護認定連携システムという構成である。

医療・介護・社会福祉の3機関で活用する3つのシステム

 北まるnetの中核的なシステム基盤である医療・介護情報連携データベースは、診療情報と付帯情報の共有・連携を担う。診療情報は、病名、処方・注射、検体・画像検査、患者サマリー、診療情報提供書、リハビリ、食事情報などが含まれる。一方、付帯情報は、看護、介護、認知、嚥下などの病棟や生活における情報、基礎ADLや自立度などの日常機能活動情報、家庭環境や社会参加に関する情報、医療ソーシャルワーカーやケアマネジャーによる介入情報、掲示板による関連施設とのコミュニケーション機能などがある。

図1 「北まるnet」の概要
北まるnetの全体像。DASCHシステムを採用した医療・介護情報連携データベースをはじめ、ほぼすべてのシステムがFileMakerをプラットフォームとしている。
出典:北見市医療福祉情報連携協議会
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 当システムの構築にあたっては、北海道の医療関係者で構成される北海道広域医療連携研究会がFileMakerをベースに開発したDASCH(Databank of Seamless Care in Hokkaido)システムを採用した。北まるnetのシステム構築専門部会長 田頭剛弦氏(北星脳神経・心血管内科病院 医療情報管理室室長)は、同システムを採用した経緯をこう振り返る。

田頭剛弦 氏
北星脳神経・心血管内科病院医療情報管理室室長の田頭剛弦氏

 「限られた構築資金で、かつセキュリティ機能を担保したシステムを短期間で構築する必要があったことから、北海道地域連携クリティカルパス運営協議会で運用実績のあったDASCHシステムを候補に検討しました。医療情報の共有だけでなく、患者さんの生活や身体機能などの付帯情報も共有でき、掲示板機能も併せて医療と介護の橋渡しとなるケアマネジャーをはじめとする介護関係者とのコミュニケーション環境を整備できることを高く評価しました。また、FileMaker上で動作しているので、事業を展開していく際に拡張性のあるところも魅力でした」。

 介護認定連携システムは、要介護度を決定する審査会を効率的に進めることを目的に構築された。これまでは、主治医意見書やケアマネジャーによる認定調査票の市介護福祉課への提出、介護認定審査会事務局が審査会メンバーへの同資料の配付など、すべて紙ベースで行ってきている。「協議会が実施したアンケート調査では、病院で50%、診療所で15%が主治医意見書をシステム化していました。しかし、介護認定の調査票のシステム化はごくわずかで、すべて紙に出力して提出しています。北見市の場合、6合議体30人の審査会メンバーにそれら資料を製本して送付する作業は、大変な負荷だと聞きました」(田頭氏)。

図2 介護情報共有システム・介護認定審査会システム
主治医意見書、認定調査票をデータベース化し、認定審査会でのペーパーレス会議、さらにはWeb会議を導入して効率化を図っていく。
出典:北見市医療福祉情報連携協議会
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 そこで介護認定連携システムの第1フェーズとして、主治医意見書、認定調査票の入力システムおよびデータベースを構築(ペーパレス化)。審査会メンバーは事前にPDF出力された両資料をダウンロードして検証するとともに、審査会議当日はiPadなどで参照しながら審査する形態に移行した。資料提出・配布に関する作業負荷と郵送コストは軽減され、審査会議においても審査会メンバーの1グループで検証したところ、紙ベースの審査とほぼ同じ時間で終了できたという。

 また、介護認定連携システムの第2フェーズではWeb会議システムの導入を計画している。介護認定審査会は、地区によっては旧町村が合併しているため参集に時間がかかり、冬場は雪のために出席できない審査員も出るという。そのため、審査員がそれぞれの職場にいながら、Web会議で認定審査に臨めるよう環境整備する。現在は準備中で、年内に実施する計画だ。

 一方、要介護者・要援護者マップ/社会資源データベースは、在宅患者・要介護者などの詳細な所在情報、医療・介護情報、周辺の医療機関・介護事業所などの社会資源をデータベース化して、レイヤー(情報)ごとに地図上にマッピングするシステム。公衆衛生的な分析情報マッピングや、救急隊での利用を考えているという。「北見市がGPSを利用した市内の詳細な除雪マップを作っており、そのGIS基盤を利用して低コストでの開発が実現しました」(田頭氏)という。

低コスト導入と利用者要件を容易に反映できる柔軟な拡張性

 北まるnetのシステム的な特徴は、運営主体が中心となってFileMakerをプラットフォームとして開発したシステムであることだ。各地で進められている地域医療連携システムが大手ベンダーのパッケージや、それをベースに作り込まれたシステムである中で、非常にユニークだといえる。

DASCHシステムの掲示板機能は、医療者と介護者とのコミュニケーションツールとして重要な役割を果たしている。
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共有する診療情報は、病名・主症状・合併症・既往歴・治療歴・処方・経過(画面の内容)など。共有する情報は今後も検討しながら増やしていく。
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診療情報だけでなく、支援概要や通院手段、社会保障情報など家庭環境や社会参加情報も共有できる。
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個人情報保護を踏まえながら多機関での情報共有を行うため、事業所ごとに多様な権限設定ができるようになっている。
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 DASCHシステムに関しては、北海道広域医療連携研究会が当初、脳卒中疾患の連携医療を対象として「Databank of Stroke Care in Hokkaido」をFileMakerで開発し、急性期病院と回復期病院の1対1での実証運用を2008年から開始した。その後、各施設からの接続経費の負担軽減を図ると同時に、脳卒中以外にも対応する「DASCH ver2.0 WEB版」を2010年に開発。その後、道内企業のDBPowers(本社北海道美瑛町)がシステム構想を受け継いで、現在の「DASCH Pro」(Web版)を開発した。

松岡高博 氏
北星脳神経・心血管内科病院理事長の松岡高博氏

 患者個人情報と医療情報を分割・分離して格納し、暗号化と共通参照キー(IDタグ)で両者を連結するなど、セキュリティ上の安全性も保たれている。また、アクセスに関してはSSL-VPNを利用し、組織・利用者の2段階認証を行っている。「セキュリティを確保したWebブラウザで利用でき、専用アプリケーションのインストールなしで運用できることは重要。実証実験に参加している25機関以外、今後の本格運用フェーズでは予算上パソコンを貸与することができません。自前で用意してもらわなければならないので、OSや端末に依存しないWebブラウザ上で動作することが条件でした。」(田頭氏)。

 北まるnetの運用において、患者あるいは介護サービス利用者の情報開示に関する同意書は、運営主体である北見市医療福祉情報連携協議会との間で交わされる。多機関・多職者が参加していることから、誰にどの情報を開示するかきめ細かな権限設定が必要になる。DASCHシステムでは、情報保護の点にも十分考慮している。「各機関に対して、管理(親権限、参照権限付与もできる)、追記(データ書込み、自院で入力した情報の編集・削除)、閲覧(参照のみ)、照会(個人の情報、名前・住所などをブラインドにした閲覧許可)などが細かく設定でき、ユーザー権限もページごとに許可・不可を設定できるので、無秩序な情報共有は避けられます」(田頭氏)。

今野敦 氏
北見市医療福祉情報連携協議会代表副会長の今野敦氏

 連携協議会では北まるnetの整備において、道の「地域支え合い体制づくり事業費」(介護基盤緊急整備基金)の助成金を受けて構築している。初年度に介護分野の情報共有を先行してスタートしたために当助成金を受けることができたものだが、助成金額は1850万円と決して多くはない。各地の地域医療連携ネットワークが億単位の資金で構築されているのに対し、北まるnetはネットワーク構築、医療・介護情報連携データベースの構築、介護認定連携システムの構築、データセンター委託の各事業を、約1800万円で実現している。

 北まるnetの実証実験は、病院、診療所、市役所、地域包括支援センター、居宅介護事業所、介護保険施設、調剤薬局、地区消防署など25カ所が参加して始まった。今後、本格運用に向けて市内の医療機関、介護事業所などへの説明会や講習会を開いて参加機関の拡大に努めると同時に、市民向け説明会を開催して周知と理解を求めていく予定だ。北星脳神経・心血管内科病院理事長の松岡高博氏は「参加機関が多くならないと患者・利用者の情報も集まらないし、地域住民への医療・介護サービス向上にもつながりません。参加施設の拡大が成功のカギになります」と意気込みを語る。

 自身でも院内システムをFileMakerで作成している連携協議会代表副会長の今野敦氏(北見循環器クリニック院長)は、北まるnetプラットフォームを高く評価している。「今後お薬手帳や処方せんの電子化をはじめ、さまざまな機能や仕組みを実装していく計画です。永続的に使える社会システム基盤としていくためには、地域の医療・介護サービスを担う現場の要望を取り込める柔軟なプラットフォームであること、かつそれを限られた予算で実現できることが求められます。そういう意味でも、専門的なシステムスキルがなくても扱え、しかも低コストで求める機能を作れるFileMakerは価値あるツールだと思っています」(今野氏)。

 加えて今野氏は、地域の社会基盤として医療福祉情報連携システムが発展していくために、行政がある程度の責任を持った支援が必要だと訴える。「これは、本来医療機関が資金を投じて行う事業ではないと考えています。疾病予防やCKDの早期対策など進めば確実に行政の社会保障費は減るわけですから、行政の責任において支援するべきでしょう。そのために、われわれとしては医療福祉情報連携ネットワークにおけるエビデンスをきちんと出して、有用性を証明していく必要があります」(今野氏)と決意を語った。


■団体概要
名称:北見市医療福祉情報連携協議会
会長:古屋聖兒氏
代表副会長:今野敦氏
協議会参加機関:医療機関、介護関連機関、消防組合、市役所など25団体(2012年7月時点)
導入システム:ファイルメーカー「FileMaker Server」「FileMaker Pro」、DBPowers/北海道広域医療連携研究会「DASCH Pro」

院内でも積極的に活用されているFileMaker

 北星脳神経・心血管内科病院、北見循環器クリニックでは、院内でもFileMakerを利用した業務システムを医療者自らが開発・運用している。

北星脳神経・心血管内科病院の院内ポータル。FileMakerで作成した各業務ツールの入口になっている。
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 北星脳神経・心血管内科病院は、病院予定や施設予約、非常勤医師の送迎予定などのグループウエア機能、病床管理や健診・脳ドック予定管理・結果報告、物品請求などの業務システムをFileMakerで開発、院内ポータルを立ち上げて運用している。特に病床管理システムは、入院機能に関するさまざまな機能を実装。電子カルテのベッドコントロール、空床管理より使い勝手の良い、重要なアプリケーションになっている。

 病床管理システムでは、入院予定患者管理、一般病床(急性期患者)から療養病床(慢性期患者)への転棟を一画面で管理できるよう工夫されている。また、看護必要度のアセスメント情報を電子化して実装し、スコアの自動計算や施設基準届出様式に沿った出力ができる。さらに、病床利用率、1日あたりの収益目標・実績、収益差額、月損益なども同じ画面に表示される。

北星脳神経・心血管内科病院の重要な業務システムの1つとなっている多機能な病床管理システム。
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 「次々に上がってくる現場の要求を実装してきた結果、多機能な病床管理システムになりました。FileMakerの優れているところは、現場が欲している機能を迅速に、コストをかけずに実現できること。日本語でデータベースを作成することが可能で、プログラマーでなくとも容易に開発できます」(医療情報管理室室長 田頭剛弦氏)という。

FileMakerで管理している検査結果・透析条件。
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 透析ベッド50床を有する北見循環器クリニックは、主に人工透析管理をFileMakerで行っている。透析記録管理では、透析条件、投与薬剤、使用ダイアライザーなどの記録、標準化透析量(Kt/V)・蛋白異化率(PCR)・時間平均BUN(TAC BUN)などから判定する透析量の過不足の計算といった、さまざまなデータを記録・管理しなければならない。

 「透析カルテとしては、既存の電子カルテはほとんど使えません。特に電子カルテ上で計算させることは難しいため、FileMakerで構築した透析管理システムが必須です」と院長の今野敦氏は指摘する。

患者にわかりやすいよう説明を加えた血液検査結果票。
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 また、同クリニックでは検査データを基にした患者説明用の資料、企業健診の結果管理・提示などにもFileMakerで自ら開発したシステムを活用している。「血液検査データを患者さんに渡すにしても、普通は検査結果と正常値が示されているだけ。しかも略号が多く使われているため、理解しにくい。何のための検査なのか、数値が何を表し、そのデータが標準値からどれほど逸脱しているかを色分けして表示するなど、わかりやすい検査結果表にして渡しています。自分の思ったように容易に作成できることが、FileMakerの大きなメリットです」(今野氏)と述べる。