スモールセルを積極活用

 それでは、“飛ばない”高い周波数とOFDM方式を使いつつも、移動通信の伝送容量を増やすにはどうすればよいか。その答えが、スモールセルの活用である注1)。スモールセルを用いることで、一つの基地局が受け持つ移動端末の数を減らし、端末当たりの帯域を拡大して快適な携帯通信を実現できる(図2)。しかも、スモールセルはその名の通り、小さなエリアをカバーするので伝送距離は短くてもよい。

図2 小さな基地局を配置
マクロセルのエリア内にスモールセルを配置することで、トラフィック需要の拡大に対応する。一つの基地局が受け持つ移動端末の数を減らし、端末当たりの帯域を拡大して快適な移動通信の実現を目指す。
[画像のクリックで拡大表示]

 世界の移動通信サービスの標準化を主導する「3GPP(The 3rd Generation Partnership Project)」でTSG-RANの議長を務めたNTTドコモの中村武宏氏注2)は「2020年ごろには街路灯や看板、信号機の中など、電源の確保ができるあらゆる場所に、スモールセルが潜り込むような世界が来ても不思議ではない」とする。

 街路灯にも基地局が入る─。これを実現する基地局の究極の姿は、わずかなスペースに設置できるほど小型で、電源を入れたら面倒な設定なしにネットワークを構成する簡易性を持ち合わせたものだ。トラフィックが多い場所があれば、すぐさまそこにスモールセルを追加して通信容量を拡張する。パソコンなどの民生機器では一般的になった、「プラグ・アンド・プレイ(plug and play、PnP)」の考え方を移動通信の基地局にも適用するわけだ。

曖昧なスモールセルの定義

 スモールセルの概念自体は新しいものではない。当初は、マクロセルだけではカバーしきれない「カバレッジ・ホール」を埋める目的が主だった。だが最近では、トラフィック需要への対応に目的が移りつつある。マクロセルの収容エリアの中に、顕著なトラフィック需要が予想されるスポットがある場合、その周辺にスモールセルを重層的に配置することで、トラフィックの混雑を緩和できる。

 スモールセルには、明確な定義はない。標準化団体の3GPPでは、セルの大きさの規定として、20dBm以下を「Home BS」、24dBm以下を「Local Area BS」、それ以上を「Wide AreaBS」としているのみだ。

 一般にマクロセルは、半径1k~25km程度の領域のユーザーを収容できる。これに対してスモールセルは出力が10W以下と小さな基地局で、少ないユーザーに対してスポット的に通信需要が高い領域をカバーする。通信事業者や基地局メーカーによっても差異はあるが、表A-1で示したうち、屋外用のピコセル(出力が1~5W)よりも出力が小さいものをスモールセルと称している企業が多い。出力によって必要な技術や部品が異なるため、どのサイズのスモールセルが主流となるかによって、部品メーカーや基地局メーカーの優勝劣敗が決まりそうだ。

表A-1 基地局の分類例(各社の発表を基に本誌が作成)
[画像のクリックで拡大表示]

注1)マルチアンテナ・アレイを使いビーム・フォーミングをすることで、伝送距離と伝送容量を向上させる研究もある。
注2)同氏の正確な肩書きはNTTドコモ 無線アクセス開発部 無線アクセス方式担当 担当部長である。

出典:2013年6月10日号 pp.30-32 日経エレクトロニクス
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。