SCE 第二事業部 設計部5課 チーフの小田桐一哉氏。
SCE 第二事業部 設計部5課 チーフの小田桐一 哉氏。

「USB端子の位置ですが,背面から前面に変更していただけませんか」

「いや,それだとUSBケーブルでLEDランプが見えなくなるので…」

「デザイン上,重要なのは分かりますが,今のままだとハードウエアの開発が間に合わなくなるかもしれません。前面に配置してください」

 2009年10月。宮崎と小田桐たちは,今度は外観デザインで課題に直面していた。USB端子の配置をめぐり,デザイナーと意見が対立していたのである。

torneの外付けチューナーの内部。チューナーLSIとトランスコーダLSI などで構成される。このチューナーは2010 年3月発売のものである。
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 デザイナーの案では,端子類すべてをチューナーの背面に集約していた。だが,これでは機器内部の配線が長くなり,電気信号が干渉し,電磁雑音が発生する恐れがある。こうした干渉の問題は,なるべく早めに解決すべきだ。それが,RF信号を長年扱ってきた宮崎や小田桐たちの考えだった。結局,彼らの思いが届き,USB端子は筐体前面に配置されることになった。

 小田桐たちは,デザイナーだけではなく,石塚たちとも意見がぶつかることもあった。例えば,外付けチューナーに内蔵するメモリの容量でもめたことがある。

 石塚は録画データの不正コピー防止に使う暗号鍵の格納のために,できるだけ多くのメモリ容量が欲しいと主張した。録画できる番組数を増やすためだ。ところが,小田桐たちにとってはメモリ容量の増加はコスト上昇に直結してしまうため,安易には承諾できない。石塚は1Mバイト品を求めていたが,交渉の結果,512Kバイト品の採用で落ち着いた。

 このほかにもさまざまな改良を加え,2009年11月,UIやアプリなどと同じく,ハードウエアも今のtorneの原型が出来上がった。

今更中国とは

 「本当か,中国生産にするというのは。それでは間に合わなくなるぞ」

 開発メンバー一同は,この決定に青ざめた。この時期,2009年11月には,既に生産ラインが日本で組み込まれていた。それを今から中国工場へ移管するというのだ。

 さらに,ほぼ同じ時期,マーケティング側からtorneの発売時期を早めてほしいという要望がきた。発売を予定していた2010年3月には,人気ゲーム・ソフトが多数発売される。これでは,torneが売れなくなってしまう恐れがあるからだ。この結果,開発スケジュールが2週間ほど前倒しとなってしまう。ただでさえ短い開発期間が,より短くなってしまった。

 突然の生産工場の変更やスケジュールの前倒し。だがこれらは,苦難の序章にすぎなかった。2009年末から2010年1月にかけて,予想外のトラブルが次々と押し寄せてきた。発売まで約3カ月。怒涛のラスト・スパートが,いよいよ始まる。=敬称略

出典:2010年10月4日号 pp.102~105 日経エレクトロニクス
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。