投稿サイトの運営に乗り出す

2008年1月末時点で投稿できる作品は,初音ミクや鏡音リン・レン,MEIKO,KAITOに限られている。
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 鏡音リン・レンの開発が最終段階に入った2007年12月3日,クリプトン社は自前の投稿サイト「ピアプロ」のβ版を立ち上げた。この意図を伊藤は「CGM作品にある著作権のグレーゾーンを払拭し,健全なCGM文化を活性化したかった」と説明する。ニコニコ動画に投稿された作品の多くが,プロの作品を無断利用する著作権侵害の側面を持っていたからだ。完全なオリジナル作品が増えたとはいえ,初音ミク関連の作品も状況は似たり寄ったりだった。「現状のままでは,たとえ優秀なオリジナル・コンテンツが生まれても商品化などに利用しにくい」(伊藤)。

 ピアプロの立ち上げ直後,伊藤が抱いていた懸念は現実になる。人気楽曲「【初音ミク】みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」がJASRACの管理曲となるという「事件」が起こったのである。ニワンゴの親会社であるドワンゴの関連会社ドワンゴ・ミュージックパブリッシングが「着うた」配信をするために,手続きを取ったのが原因だった。

 この事実が2007年12月中旬に明るみに出ると,ニコニコ動画のユーザー間で「今までのように同曲を利用した作品を投稿できなくなる」という不安が広がった。JASRACの管理下に入れば,たとえ著作者が2次創作を黙認していても,その意志に関係なく,使用料の支払い義務が発生するからだ。ほかのユーザーの作品を基にして新たな創作を積み重ねる「初音ミク・コミュニティー」が壊れてしまう恐れがあった。

 そこでクリプトン社はこの問題に介入する。JASRACの登録時のアーティスト名として許諾なく「初音ミク」が使われたことを理由に,ドワンゴに話し合いを申し入れたのである。

 この話し合いの結果,両者は着うた配信や今後の協業について共同声明を発表した。初音ミクのキャラクターの著作権や名称の商標権,作成した音楽データ(原盤)の権利などについて明確に宣言したほか,ユーザーを配慮した項目も盛り込んだ。例えば,音楽データの権利行使代行会社を制作者が決定できることなどを決めた。

 本来の音楽制作ソフトの作製だけでなく,コンテンツ投稿サイトの運営にまで乗り出したクリプトン社。CGMコミュニティーを守りつつ,適切な著作権管理の最適解を探る伊藤たちの新たな挑戦は,始まったばかりだ。  =敬称略

―― 終わり ――

出典:2008年3月10日号 pp.125-127 日経エレクトロニクス
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