生物資源を主原料とするバイオマス・プラスチック(バイオプラ)の採用が進んでいる。これまで,カーボン・ニュートラルや生分解性といった側面が強調されてきたバイオプラ。だが,これら二つとは別に,バイオプラにはもう一つ重要な利点および使命がある。それは,極端な石油依存を軽減し得るということであり,そうしていかねばならないということだ。

 マツダ技術研究所主幹研究員の栃岡孝宏氏は,次のように語る。「現在,プラスチックのほとんどは,石油から造られている。しかし,石油はいずれ枯渇する。再生可能なバイオマスからプラスチックを造る道筋が必要だ」――。

石油代替の切り札として

 日本のように原油を資源としてほとんど持たない国にとって大事なことは,現状のような極端な原油依存から脱却することである。具体的には,原油を補完もしくは代替できる技術を早急に確立することだ。エネルギ関連,自動車関連,プラスチック関連といったあらゆる分野でそれを目指し,技術の多様化によってリスクを分散させつつ,原油をできるだけ長持ちさせる。ひいては,それが原油価格の極端な高騰や乱高下を防止する手段となるはずだ。そして,その代替技術の一つとして有力なのがバイオプラだ。

 もちろん,石油由来のプラスチックを代替するには,バイオプラの技術的なポテンシャルが十分でなければ話にならない。しかし,この点については大丈夫だ。バイオプラは石油系のプラスチックに比べるとまだ歴史は浅いが,特性の改善や新種の開発が急速に進んでいるからだ。

 例えば,バイオプラの代表格であるポリ乳酸(PLA)では,特性の改善により,適用できる用途がどんどん広がってきている。電子情報機器の筐体では「モバイル機器のような非常に薄いものを除けば,現状でも十分に使える」(NECナノエレクトロニクス研究所主席研究員 兼エコマテリアルRG研究部長の位地正年氏)ところまで来ている。耐熱性で100℃以上が求められる自動車の内装部品や,最高レベルの難燃性が求められる複合機の外装部品などにも使われ始めた。

大企業が続々と

 現時点では,石油系のプラスチックに対して価格が高いのが難点である。電子機器の筺体や自動車内装用の射出成形品に使われるエンジニアリング・プラスチック(エンプラ)相当のPLA系の場合,石油系のエンプラの価格を500円/kgとすると,その2~3倍といわれる。しかし「2008年夏の原油価格の高騰で,採算が取れそうな見通しが見えてきた」(マツダの栃岡氏),「個人的な見解だが,現在特注品となっている添加剤を共通化した上で量産化できれば,700~800円/kgまで下げられる可能性がある」(NECの位地氏)という声が上がってきている。ほかにも,トヨタ自動車,富士通,キヤノンなどの大企業が続々と前向きな姿勢に転じている。

 汎用プラスチック相当のPLA系バイオプラでは「原油の価格が70~75米ドル/バレルまで上がると,ポリスチレン(PS)やポリエチレン・テレフタレート(PET)と同等以上の価格競争力が出てくる」(PLAメーカー最大手の米Nature Works社の日本法人であるネイチャーワークスジャパンの取締役,高畠大典氏)。「米国では,PSやPETがアジアに比べて3割ぐらい高い」(同氏)ので,日本での採算レベルはもっと厳しいが,今後原油が高騰してくれば,バイオプラの価格競争力が石油系プラスチックを凌駕する可能も出てくる。しかも,今やそれがいつ起こってもおかしくない状況にあるといえる。

 次回からは,実際にバイオプラを使い始めた企業の事例を紹介する。

本シリーズは,日経ものづくり2009年8月号特集「こんなに使えるバイオプラのすべて」(pp.36-61)を大幅に加筆・修正したものです。(記事は同特集執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)