米国ニューヨークに「Brooklyn Bridge」というつり橋がある。建造されたのは1883年。橋を支える鋼鉄ケーブルに必要な強度を厳密に数値設計するすべがなかった時代だ。そのためケーブルの強度は,経験値を基に大幅に余裕を持って設定された。いわばエンジニアリングが確立する前に,モノが作られた。日本のソフトウエア工学の草分けである松原友夫氏は言う。「モノが作られた後になって,その品質を安定的,工学的に確保する手法が発見されるのは,エンジニアリングの世界ではよくあること」。

 今,専門家の間で,ソフトウエア開発はよく建築になぞらえて語られる。建築もソフトウエア開発と同様,多様な分野の専門家が多数連携して初めて造れるプロジェクトである。大人数が集まるが故に「施工管理」というプロジェクト管理は欠かせないが,建築物自体の強度や構造設計は,構造力学など数学や物理を基盤とした工学的体系で品質が確保されている。

 では,ソフトウエアはどうか。薄型テレビ,DVDレコーダ,デジタル・カメラ…。日本製品は世界を席巻し,製造するメーカーはグローバル企業として名をはせる。しかし,ハードウエアとしてはハイテクの塊であるデジタル機器も,その上で動くソフトウエアは,実は家内制手工業に等しい前近代的な手法で作られているのではないか。

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