医工連携「製販ドリブンモデル」開発物語(page 7)

医療機器産業への参入を成功させる

2015/08/21 00:00
福山 健=日医文化総研
出典: 「知遊」第24号,2015年7月発行 ,pp.48-59 (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

よし、挑戦してみよう! だけど、お金、出せるの?

 製販ドリブンモデルが実際にはどのようなものであるか。前述した第一医科の「難治性メニエール病のめまい発作を無侵襲的に軽減する医療機器」という開発テーマを製品化する形態を見てみると、よくわかる。

 第一医科のほかに、富山大学、河西医療電機製作所、ハイメック、富山県新世紀産業機構と4つの組織がかかわっている。図表2は、互いの関係性とそれぞれの役割を記したものだ。

図表2 第一医科の「中耳加圧装置」開発に見る「製販ドリブンモデル」。©第一医科(株)
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 医療ニーズは、基本的には大学のドクターが持っている。難治性メニエール病のめまい発作を、患者のからだへの負担が少ない方法で軽減する機器を開発してほしい、というのは、かねてからの臨床現場の強い要請であった。

 第一医科が事業管理機関に提出した「事業成果概要」には、つぎのように記されている。

【めまいを伴う難病「メニエール病」治療には「クスリ」「手術」そして海外では第3の方法として低侵襲な「中耳加圧治療」があるが、日本では認められていない。そこで、日本にある無侵襲な既存医療機器を改造し、中耳加圧治療を可能とする。初年度(平成24年度)中に試作機完成、「新型鼓膜按摩器」として認証取得する。次いで取得から2年以内を目標に認証取得済み「新型鼓膜按摩器」を使っての治験を経て、日本における「中耳加圧装置」による新しい治療方法の確立を目指す】

「中耳加圧装置」の使い方を説明する林社長(向かって左)と柏野さん。(写真撮影:根岸聰一郎)

 第一医科にとっては治験が伴う大事業だが、大学病院の教授にとっても臨床データなどのエビデンスを構築して、機器の安全性と有効性を立証し、機器の導入・普及に努めねばならず、一大決心を要する。林社長が、「先生、この企画はいかがですか」と尋ねると、教授からは応諾の決意とともに疑問も呈せられた。

「よし、挑戦してみよう! だけど、第一医科さんで、お金、出せるの?」

 資金の面で支援する役割を果たしたのが、公益財団法人富山県新世紀産業機構だ。

 同機構は、富山県の産業を一体的、効率的に支援していくために誕生した機関で、創業・ベンチャー、経営革新、技術開発、販路・流通拡大等、企業経営や事業展開のなかで直面するさまざまな課題に対して、効き目のある解決をはかるためにワンストップで支援する総合支援機関である。

 ワンストップ支援とは、複数の行政が行っている支援事業を1つの窓口で受けることができる機能を持っていることを指す。経産省の課題解決型事業の窓口にもなっている。同事業では年間8000万円の委託費を3年間支給されるしくみがあり、第一医科はこれにより2億4000万円を上限とする開発資金を確保し、治験を伴う開発に取り組むことが可能となった。富山県新世紀産業機構は医工連携支援の役割を果たし、開発プロジェクトを成功に導く事業管理機関として位置する。

 河西医療電機製作所は、ポンプ・コンプレッサーおよびこれらを制御する技術をベースに、吸引器製造において業界ナンバーワンを誇る。一品一品、手づくりで製作し、多品種少量生産を最も得意とするものづくり企業だ。第一医科に対して、計装および外装設計、製品試作、生産プロセスの確立などで協力する。

 ハイメックは、富山市に立地する医療機器販売の専門商社だ。第一医科の耳鼻咽喉科向け機器を富山県内で販売し、富山大学は主要顧客だ。同社は第一医科が富山大学で治験を進めるにあたって器械をそろえたりするとともに、臨床現場の意見や要望を第一医科に伝える役割を担う。卸企業・代理店として販売ノウハウの助言も行う。

 公的資金の委託を受けて治験を伴う開発に取り組めるようになると、他の大学病院のドクターからも「国から委託を受けて治験を始めたんだって! ぜひ取り組みたい研究テーマがあるから、今度組もうよ」と声をかけられるようになった。これまでなら考えられなかったことである。

 思わぬ変化は、社内にも生じた。

 自分たちが取り組んでいる仕事は、国や地方公共団体からの委託を受けて、公金を使わせてもらっているという意識は、開発に携わる人たちの意欲と責任感を高める効果を生んだ。社外の関係組織との連携は、チームワークの大切さへの自覚を促し、コミュニケーション能力の向上をもたらした。なによりも大きいのは、組織全体に仕事へのプライド感が植えつけられたことだ。

「柏野さんから、公的資金を注入できたら、ものすごいことになりますよ、と聞かされていましたが、それが本当だと実感しました」と、林社長は笑う。

 第一医科がドライビング フォースになって、地域の産業支援機関やものづくり企業、地元ディーラーなどと連携して新製品開発に取り組む姿は、柏野さんが構想する「製販ドリブンモデル」の具現化した姿でもある。

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