日本発の手術支援ロボット、デビュー

2015/06/17 00:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

 ペットネームが“iArmS”で、その名は“I a(r)m s(upporter)”にかけてあると聞いて、一瞬うなった。最先端医療機器のイメージを保ちつつ、その機能を忠実に表現している。2015年4月にデンソーから発売された手術支援ロボットの登場は、医療機器業界だけではなく、衆目の興味を引き出すのに十分だ(関連記事)

「この世界がダビンチだけでいいのか」

 インターネット検索で「手術ロボット」「手術支援ロボット」と入力すると、出てくるのはダビンチ(米Intuitive Surgical社の「da Vinci Surgical System」)ばかり。この世界がダビンチだけでいいのか、というのが業界の識者の意見だ。ダビンチに関して批判をしているわけではなく、我が国でのこの分野の立ち遅れを危惧しているというのが現状なのである。

 こうした状況下において、医療機器が専門ではないデンソーかiArmSという特異的な機器の開発・販売に踏み切った。ダビンチとは使用目的や機能などは異質の製品だが、「手術支援」という大枠でとらえるなら、共通項を有しているといえよう。

「術者の意思が伝わる」手術台

 下写真は、iArmSの外観である。

[画像のクリックで拡大表示]

 主機能は、術者の意思に連動して移動可能でありながら、上腕を任意位置で確実に支持できる。脳外科などで顕微鏡下における繊細かつ長時間にわたる手術の際、術者の手をしっかりと支え、震えや疲れなどを軽減する。まさに、術者の思いをそのまま受けてもらえるような手置台とでも表現すればよいのだろうか。

 術者の真の意思、主として腕を「置く」「静止させる」「浮かせる」を内蔵センサーで感知。それらに応じた動作として「Hold:腕の固定」「Free:腕の移動」「Wait:周辺機器操作時の待機」の3つの機能を自動的に切り替えられる仕組みだ。モータを使用せずにこれらの動作を可能にしているため、手術現場で求められている高い信頼性・安全性を確保しているうえで、スムーズな操作性を有していることを特徴としている。

 この動作説明を文字で表現するのは難儀だが、基本動作の動画はYouTubeなどで確認することができる。

「日本の技術をいのちのために」の最良見本

 iArmSは、2014年10月に「第6回 ロボット大賞」の優秀賞を受賞した。モータレス構造による高い安全性とともに、任意の位置での固定が可能いう操作性の良さが評価されたものだ。

 これまでセンサー技術・制御技術の生きる分野での製品群を提供し続けてきたデンソーの固有技術を、医療分野で開花させた成果ともいえる。技術とその信頼性の高さを示す快挙だが、その開発過程においては、周到な総合企画のもとに到達しえたといえよう。

 具体的な戦略の一つは、信州大学および東京女子医科大学との共同開発で、これこそ「医工連携」の模範例といえるものだ。技術志向だけでなく、医療ニーズを具体的な製品として実現するためのユーザーサイドとの臨床研究を基盤としている。手術時の医師側からの要望に対して、理想的な機構を提供しようとの共同意志が働いている。

 それと同時に、従来からデンソーが進めてきたクルマの環境性能向上や安全性向上に直結する技術を、医療の分野に生かそうという会社としての意識の共有性もある。こうした優れた技術は医療の分野でも必ず生かせる、という確信さえ感じさせる。

 「日本の技術をいのちのために」は、この分野では米国に先行を許している状況下で、ものづくりにおいて優位性のある日本固有の技術を医療に生かそうという運動である。その先鋒を切ったようなデンソーの決断には、医療機器産業界からも歓迎の意向がうかがえる。

 あえて、一つだけ課題をあげるとするなら、これまでの産業構造から見れば、異業種参入ゆえの販売戦略の確立が必要かもしれない。要は、良いものができても普及しなければ何にもならない。産官学という掛け声だけでなく、優れた国産品に仕立て上げ、しかも世界で翔けるような協力体制の構築が望まれる。