睡眠評価は脳波だけで何とかなるか?

2015/05/26 00:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

 前回のコラム、「脳波1チャネル」で“眠り”に挑戦したベンチャーについて、今後の見通しなどを追記しておきたい。

シンプルな睡眠評価装置への期待

 大阪のベンチャー企業であるスリープウエルの睡眠評価システム「スリープスコープ」の特徴は、「脳波1チャネル」だけで睡眠状態がモニタリングできることにある。前回のコラムではこう述べた。

 これは、被験者にとっても現実的なメリットにつながる。というのは、“眠り”そのものを、ほとんど阻害しないからだ。今普及している睡眠評価装置は、複数のセンサーを使用していることで睡眠への阻害要素なっている状況を考えると、脳波1チャネルへの代替が合目的の理想に近い方式だといえる。もちろん、欲を言うなら、センサー部を無線化した小型送信機に置き換えるなどの工夫も必要だ。

 しかし、これだけの装置でありながら睡眠のステージまで解析可能となると、睡眠ポリグラフィー(Polysomnography)の世界も安閑としていられない事態となる。

 下図は、スリープスコープによって睡眠効率が明らかに評価できるという実証データである。

スリープスコープによる睡眠の深さの評価
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 左はSPT(sleep period time:睡眠時間)中のN3(ノンレム睡眠3、深い睡眠)の割合を示し、年齢とともにその割合が減少することを示す。このケースでは、徐波と呼ばれる低い周波数の中でも、さらに低いほうのδ波(0.5~2Hz)の出現頻度を指標にしている。この割合が多ければ深い睡眠と判定できる。右は睡眠の第一周期におけるδ波の出力としての表示で、年代別にみれば同じ傾向になることが示されている。

脳波によるモニタリングの実機から

 理解を容易にするために、脳波だけを利用しているモニタリング機器を引き合いに出してみよう。この代表例としては麻酔深度モニタがあり、同機種としては現時点での唯一無二の医療機器といえる。この機器は1990年代に欧米で開発され、現在では米国のAspect社製のものが普及している。

 この装置もδ波の出力割合から麻酔深度を示す0-100の指標を算出して表現しており、かつて手探り状態だった麻酔のかかり具合の客観的データが表示されるとして、臨床上で多大な寄与をしている。

 スリープスコープと麻酔深度モニタは、「睡眠の深さ」と「麻酔の深さ」をともにδ波で判定することが基本手法として一致しているが、それゆえに前者の信頼性の高さも保証されるといえるかもしれない。

 そのうえで、麻酔深度モニタが脳波の多チャンネル計測を行っているのに対して、スリープスコープは1チャンネルで済む、という利点がある。もちろん、麻酔深度モニタは本格的な医療機器であって、医療上でも重要な機器としての任務があり、目的や対象患者も異なるので、単純な比較が不可能であることは付記しておかなければならない。

未来のあるヘルスケア機器としての価値

 「睡眠」そのものと「医療」との関係も部分的に重なる部分があるので、将来にわたっての考察となるとその両面からの展開も出てくるだろう。しかしながら、ここでは、スリープスコープのヘルスケア領域の展開についてのみ考えることにしよう。

 現時点での立ち位置からすれば、「睡眠を健康の指標にする」という目的に徹している。しかも、家庭でも使えるようにとの配慮から、睡眠ポリグラフィーとは一線を画している。

 したがって、性能的に同等なら申し分ないが、たとえ多少劣っていたとしても、ヘルスケア機器としての価値は各段に上だろう。もっというなら、睡眠ポリグラフィーでは不可能だった「介護施設や家庭での睡眠評価が可能となった」ことになる。

 近未来、ヘルスケア機器がどうなるのか、何をパラメータにすればいいのか、多くの企業が注目する分野となっている。その意味からすれば、スリープスコープは一つの「ヘルスケア機器のホープ」となりそうだ。

 なお、スリープスコープの最新データについては、2015年7月3日の日本睡眠学会で「日本人の睡眠2015 -自宅での脳波計測による一般人1013人の睡眠実態」と題して発表される予定だ。