もちろん、コンシューマー製品のメーカーはイノベーションを狙わなければならないし、Apple社を目指すべきだろう。しかし、それは製造業全体でいえば、5%ぐらいではないか。残りの95%に相当する部品メーカーや設備メーカー、インフラ関連メーカーなどは、技術主導の組織力で地道に強くなる方が向いているはずだ。具体的には、目の前の案件で失注している原因を分析し、地道に技術を積み上げることである。

 一般に、個別受注企業におけるコンペの勝率は30%程度である。もしコンペの引き合い数を30%増、コンペの勝率を5ポイント増にできたら、売り上げは1.5倍、営業利益は2倍になる。こうした現実から目を背け、足元の失注分析をせずに、イノベーション志向の標語を掲げたり、マーケティング部門を新設したりしたところで、決して何も変わらない。

 全員力で魅力的な製品を生み出すには、何が必要か。それは個々の経験しかないと思っている。どんな人でも、これまでの仕事の中で、悩み、怒られ、失敗し、努力してきたはずだ。イノベーションとはいえないまでも、工夫をこらしてきたのである。こうした経験や知恵、苦労などを「設計ナレッジ」と呼ぶ。この設計ナレッジこそが会社にとっての資産であり、誇れるものである。大切なのは、整然とした業務フローでもなければ、きれいに管理された図面集でもない。設計ナレッジこそが、全員力の源泉である。

設計ナレッジを中心とした企業づくり
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 この設計ナレッジを可視化・体系化・標準化して組織で共有することが、他ならぬ設計の高度化であり、魅力的な製品を生み出すための土台となる。多くの人は、「ナレッジは共有できたらいい」「人によって設計の方法がバラバラな状況(属人的設計)には問題がある」と頭では思っているが、行動には移せていない。今こそ、この問題に真正面から向き合って解決すべき時である。