我々のライフスタイルではフラットパネルディスプレー(FPD)が身近に数多く存在する。スマートフォンを持ち歩くのはもはや日常であるし、鞄の中にはタブレット端末、さらにビジネスの現場ではノートパソコン(PC)も必需品である。デジタル放送のエンターテイメント番組も大型液晶テレビで堪能できる。街へ出ても、ショーウインドーや電車の掲示板のFPDに囲まれている。

 かつて液晶ディスプレーは、FPDとして低消費電力であるが、画質は不十分で、特に視野角が狭いものであった。しかし、いつごろからか、この話もあまり聞かれなくなった。視野角が狭かった過去は忘れられたかのようである。

 広視野角IPS(In-Plane Switching)液晶は、1990年にドイツのブラウンホーファー研究所のG. Baur氏らのグループから提案され、1992年にその広視野角の原理が学会で発表された1), 2)。そして、提案から25年後の現在、1.5型のスマートウオッチから50型を超える8K×4Kの大型高精細の表示装置まで、広範囲にわたりディスプレー応用をカバーしている3), 4)。そして市場にあるIPS液晶ディスプレイは視野角の狭さを感じさせない高画質である。

 今回、広視野角を最大の特長とするIPS液晶を取り上げ、その誕生に始まり、現在も進化を続ける歩みを紹介する。この連載では、誕生からモニター、液晶テレビ、スマートフォンやタブレット端末、さらに将来へ向けて、時代と共に進化してきた技術内容を解説する。

 筆者は1982年、日立製作所に入社し、日立研究所に勤務。1985年より低温多結晶Si(LTPS)の研究に従事、IPS液晶ディスプレーについては、千葉県茂原市のディスプレイ事業部へ異動後の1998年から、パナソニック液晶ディスプレイに異動した現在までにわたり、かかわっている。連載の第1回では、広視野角IPS液晶の誕生からモニター用での製品化(~1999年)までを紹介する。ただし、今回の内容については、現場近くで状況を見聞きはしているが、直接かかわっていなかった時代があるので、改めて先輩技術者の話をお聞きした注1)

注1)当時、日立製作所でIPS液晶にかかわっていた川上英昭氏から、G. Baur氏との交流を含めたIPS液晶創世記の話を伺うことができた。

 これに、学会論文や特許公報などの資料内容を加味してまとめている。

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