「脳波1チャネル」で“眠り”に挑戦したベンチャー

2015/04/28 00:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

 ヘルスケア事業への参入に際し、どこが狙い目なのかは、産業界にとっての最重点テーマといっていい。今回紹介する企業は、新規参入という位置づけにありながら、一見すると意外なパラメータに目をつけて睡眠管理を実現しよう、というユニークな課題に取り組んでいる。

“敢闘賞”の意味するもの

 先の「MEDTEC Japan 2015」(2015年4月22~24日、東京ビッグサイト)では、慣例どおり「MEDTECイノベーション大賞」の選考が行われた(関連記事)。ここで筆者が注目したのが、敢闘賞を受賞した「スリープスコープ」。脳波を利用した睡眠評価システムだ。

 このシステムは、大阪のベンチャー企業であるスリープウエル(吉田政樹社長)が2年ほど前に医療機器としての認証を受けた製品で、脳波1チャネル測定により睡眠の評価を可能にしたアイデアが盛り込まれている。

「スリープスコープ」取扱説明書の表紙から
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 敢闘賞の授賞理由は、「基礎研究から少人数でベンチャーを立ち上げ意欲的に取り組んでいる」というもの。大企業でも二の足を踏むようなテーマに対して、果敢に挑戦していることが評価の主旨だろう。

 その基盤となる綿密な基礎研究と同時に、少人数でありながら「製造販売業」という法制上の壁を乗り越えた事実が、今回の華やかな受賞の舞台裏に隠されている。“敢闘賞”として選出した審査委員でさえ、そこまで読み切るのが難しかったのでは、とも推測しているが…。

 ともあれ、発表結果を知ったとき、この敢闘賞は一研究テーマとして、一認証取得医療機器例として、それに、一つの未来のヘルスケア機器例としても重要な意味を持っている、そう感じた次第である。

基礎理論実証への地道な努力が実る

 これまでの睡眠評価装置は、Polysomnography(睡眠ポリグラフィー)というターム自体が示すとおり、多項目のセンサー類を備えたかなり大がかりなシステムが主体となっている。

 「スリープスコープ」の最大の特徴は、「脳波1チャネル」だけで睡眠状態がモニタリング可能となったことの実証にある。被験者にとっての睡眠のモニタリングのために、数多くのセンサー類を装着するとなっては、睡眠そのものの阻害にもなりかねず、測定目的に悖る方法といえる。この点に関していうなら、スリープスコープの大きな利点がここにある。

 下図は、2014年度の日本睡眠学会で発表された睡眠効率の解析結果で、スリープスコープによる一般人921人のデータ解析結果の一例を示す。

睡眠効率の分析結果
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 このデータは、これまでおぼろげなから普通に認識されていた「加齢とともに睡眠効率が低くなる」という事象を、科学的なデータとして明らかにしたものだ。実は、脳波のモニタリングという観点からすれば、δ波(3Hz以下)に注目して麻酔深度を推定する装置が実在し、これは欧米のメーカが実用化している。全身麻酔下でよく出現するδ波を評価基準にしているというすぐれものでもある。

 スリープスコープの原点は、たぶんこの思想に着目したものかもしれない。というのは、睡眠中にも、δ波やθ波(4~7Hz)などの低周波の波が出現することがわかっている。ならば、そのδ波を標的にすればよい、という明確な狙いがあった。

 ある意味では、そのことを知っている多くの専門家がいるにもかかわらず、それを実用化しようという意欲がなかった、もっというなら、怠慢であったといわざるを得ない。それより、一ベンチャー企業の狙いとして、その標的に的中したといったほうがいい。

 次回、δ波解析結果とヘルスケア機器としての位置づけなどについて記す。