どう造られているか知らない技術者

 それでは、設計者の目線で固定費マネジメントを実践するにはどうすればよいのだろうか。固定費を増やさないようにする上で最も重要なポイントは、設計者が自分の書いた図面について、「工程フロー」を書けるようにすることである。

 昨今は、自分で図面を書いたモノが実際にどのように造られているのか知らない技術者も少なくない。設計業務がシステム化したことで、設計者はデータのやり取りだけで済ませ、現場には出向かなくなった。だが、製造現場のことを知らずして、固定費マネジメントなどできるわけがない。自分の書いた図面の工程フローを書けなければ、固定費マネジメントは不可能である。そんな技術者は、「ボスの位置をどれぐらい変えたら、汎用治具で組み立てられなくなるのか」「形状をどれぐらい複雑にしたら、500tプレス機が使えなくなって、800tプレス機になってしまうのか」といったことを想像できないだろう。

 Apple社は、サプライヤーの工場を必ず徹底的に調査・観察する。どのような作業でどのような制約があるのか徹底的に洗い出す。それは、トヨタ自動車がTPS(Toyota Production System)指導と称してティア1の工程を丸裸にする手法と非常によく似ている。そして、Apple社の技術者は工程のことを熟知した上で、製品を設計するのだ。そのために、工場にある設備/治工具のラインアップや、それぞれの加工範囲(Min-Max)などをリストにして、設計者と工場が共有できるようになっている。日本の技術者は、工場や工程にそこまで興味を持っているだろうか。実は、1970~1980年代の日本の技術者は、今のApple社の技術者とそっくりのやり方をしていた。

「怖いおっちゃんの顔」がチラつく

 かつて、日本のメーカーでは、ボスの位置や板厚、取り付け部の隅Rを勝手に変更すると、即座に製造現場のベテランから電話が掛かってきて、現場に呼び出され、怒鳴られていた。設計変更しようものなら、恐る恐る現場に出向いて、ご機嫌を伺いながら変更を依頼していた。そうして現場のことを理解していったのだ。

 そうすると、常に「現場の怖いおっちゃんの顔」を思い浮かべて図面を書くようになる。顧客の要望があるから新しいことをしなければならない。しかし、「怖いおっちゃんの顔」もチラつくので、むやみやたらに変更できない。顧客とおっちゃんの板挟みになりながら、良いモノ、もうかるモノを生み出していったのだ。

 この「怖いおっちゃんの顔」こそが固定費マネジメントなのである。「どの形状を変えると現場の段取りが大変になるのか」「どの寸法を変えると治具まで変えなければならないのか」を考えて、現場の手数を増やさずに顧客のわがままな要求を実現していく必要がある。