川口 それは分野としての何かであって、さっき話したような世界観というものが全然ない。例えば、IoTをやるときに「人間をノードとして活用する何とかの世界だ」というような感じで、リスクをとってやるならばいいのだけれど。結局、失敗するリスクと、何もしなかったリスクは、どっちがよかったかという話になる。何もやらなかった方が、ほらよかったじゃんと。

 何もなくて、昨日も今日も変わりませんでした。身動きしなかったら台風が通り過ぎて生き残りました。それは人生に関する哲学になるんだけど、どちらかと言えば何かをやってみて学ぶこと自体が価値ではないでしょうか。一生は一回こっきりですからね。

(写真:加藤 康)
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山本 「エレクトロニクスを利用して、あなたは何をしようとしているんですか」「もっと夢はないのか」という話なんです。要は、「あなたが活躍したおかげで、こういうモノが世の中に出て、みんなが感謝して喜んで使っている状態を夢見たことがないんですか」ということですよね。

 もちろん、「売り上げが上がる」「給料が上がる」といったこともあると思うんですけど、もっと根源的な欲求はないのかと、経営幹部といわれる人たちに呼ばれて話を聞くたびに言うんですよ。で、「あなたは、どうしたいの?」「何か実現したいことはないの?」「せっかく取り組んでいるのだから、目先の営業数字を見て眉間にしわを寄せてないで、夢を語りましょうよ」と話しても、あまり言ってくれません。

今井 言わないのか、そもそもないのか。

川口 ないんじゃないかな。

山本 ないんですよね。

川口 回答の自由度を高めたクエスチョンに対しては真っ白。自由度をできるだけ下げて法則にはめれば、はめるほど幸せ。予算はこれだけで、納期はこれだけ。赤提灯で愚痴を言いながら、これしかやることがないんだよねと徹夜するのが大好き。エヴァンゲリオンのシンジ君ですよね。3億円をあげるから自由に使って何かやれと言われると、「さあどうしよう、何をベンチマークすればいいのか」というふうになってしまう。

山本 大手企業で話を聞くと、それは毎回思いますね。

川口 でも、何度も話しているけれど、技術者として専門分野を持つことは大切で、それがなければ始まらないんですよ。自分の自由度をある程度固定しなければ、世界を眺めることができないから。ほとんどの日本メーカーの技術者は、そこまではできている。もう十分にできています。今は、「そこから眺めると世界は何角形に見えますか」ということが問われている。