今井 世界観というのは、好奇心につながっているわけですね。エレクトロニクス業界では、ほかの分野といろいろと議論をしていく必要性が出てきています。そのときに世界観のなさがハードルになって、なかなか新しいものが生まれないと。

山本 違う角度の話をすると、物流関連のビジネスで、いろいろな分野の技術者を雇って会社をやっている人と話す機会があるんです。会合の場で「大手居酒屋チェーンのワタミが赤字になりそうです。なぜだと思いますか?」という話をすると、自分の専門領域から説明しようとしてくれる人はまだいいのですが、大多数のプログラマーや技術者は「分かりません」と言うんです。新聞やインターネットを見ていないのかと思ってしまいます。

川口 苦し紛れでもいいから…。

山本 何か言ってよ、と。

川口 何かのまねでもいいから、自分の考えらしきことをすぐにステートする訓練ができていないのかもしれないね。

川口 盛之助(かわぐち・もりのすけ)
1984年、慶應義塾大工学部卒、イリノイ大学修士課程修了(化学専攻)。 技術とイノベーションの育成に関するエキスパート。付加価値となる商品サービス機能の独自性の根源を、文化的背景と体系的に紐付けたユニークな方法論を展開する。その代表的著作『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社BIZ)は、技術と経営を結ぶ良書に与えられる「日経BizTech図書賞」を受賞し、英語、韓国語、中国語、タイ語にも翻訳される。台湾、韓国では、政府産業育成のための参考書として選ばれ、詳細なベンチマーク報告書が作成される。心をつかむレクチャーの達人としても広く知られる。TED×TokyoにおけるToilet Talkは40万回再生という異例の反響を得ており、Yahoo Japanの動画サイトでは世界の傑作プレゼンテーション・ベスト5に選ばれる。世界的な戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトル・ジャパンにおいて、アソシエート・ディレクターを務めたのちに株式会社盛之助を設立。国内のみならずアジア各国の政府機関からの招聘を受け、研究開発戦略や商品開発戦略などのコンサルティングを行う。(写真:加藤 康)
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山本 言い方は悪いですけど、専門バカ的な人であっても、ある程度は思い込みでも独りよがりでもいいから「自分の知識から考察するに、こうじゃないか」と話せるようになっていった方がいいと思うんです。会合が終わった後に酒を飲んだときに出た話ですけど、「自分の子供に『なぜ悪者は倒されるのか』と聞かれて困っている」と。

川口 それは答えられない?

山本 答えられないです。価値観として、悪者とは何か、倒されるということは何かを考えたことがないのかもしれません。でも、日常を過ごしていると、善悪の観念は当然あるし、世の中の仕組みも組織の都合も分かってくるじゃないですか。それなのに、子供に答えられないって、人として親としてどうなんだろうと大激論になってしまいまして…。

川口 酒が入るとそうなるよね(笑)。

山本 そういう価値観って、その人の生き方や死生観を含めて、どういう暮らしがあって、どういうことを目指して、どうやってできることとやりたいことの落差を埋めていくか、という作業につながると思うんです。自分自身の人生や経歴、持っているスキルといった「自分のたな卸し」作業です。それを突き詰めて、初めてキャリア設計や、自分の人生、親の介護とかの社会問題に対処していくわけじゃないですか。

 それがないままに生きていくのは、リスクに脆弱になってしまいます。例えば、プロの技術者として、自分の長年培ってきた技術が市場価値を喪失するとき、文字通り生存の危機じゃないですか。でも、多くの人はそれでも何とかなると思っていて、何だろうこの楽観主義はと思うところがちょっとあって。「あなた、来月は会社にいないかもしれないですよ」と話すと、みんなキョトンとするわけですよ。問題意識も危機感も持つことない状態だと、なかなか新しいことに取り組んでいこうということに頭が回らないですよね。まあ、実際に私のお付き合いのあった会社は外資系に吸収されて消滅してしまったわけですけど。