川口 多くの技術者は自分の分野が中心になる。それで、シーズアウトをやりたくてブラックボックスをつくりたがるんです。それは自己正当化というような保護本能がなせるわざで、ほとんどはそこから思考の怠惰に陥るんだよね。

山本 保身なんですよね。

(写真:加藤 康)
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川口 そうそう。「自分は25年間をこの分野に費やしてしまったから、それが律速条件になる世界があると俺が一番幸せ」という考え方は、部長とかになるとより進むよね。だって、会社員としての残りの時間が少なくなるから。

今井 何だか話を前回に戻しちゃうんですけど、1000人に1人の人材を生かすには、やはりベンチャー企業に行くしかないということになりません?

山本 いや、シーズアウトのシーズって、結局は知的好奇心から出てくるものじゃないですか。「これが実現したらどうなるんだろう」とか「今ある技術の組み合わせでこんなことができる、最高にクールじゃないか」とか。でも、ある会社の研究所に呼ばれて、いろいろ提案して欲しいというので、その前座として研究所にいる300の研究職の人たちに「あなたは最近、何の論文を読みましたか」と聞いてみたんです。そうすれば、研究者たちの好奇心、興味が分かりますよねと。

 それを自分でチェックしてみてくださいと話すわけです。例えば、「過去1カ月でも1年でもいいので、ご自身の専門分野外の、何本の論文を読んだか覚えていますか。本でもいいです。もしくは、どこかよく分からない場所に行って、いろいろな人と話す機会はどれくらいありましたか」という話ですね。

 つまり、「これまでの自分の延長線上になかったことを、どれだけやったか」を一度指標化してみたらと提案したんです。この試みは結構フィットしたんですよ。会社としては、「研究者が何に刺激を感じようとしているのか」を定量化して、少しでも訳の分からないことをしでかしそうな好奇心の強い研究者を見つけたいということなんですね。それを研究者の評価指標にするというのはどうかとちょっと思いますけれど。

川口 結局、異分野の人にでも通用するような仮説を持とうとしたら、すごくメタな仮説になる。それを明示的に持っている方がいいんですよ。漠とした状態で、いきなり異分野の人と会っても得るものは少ない。でも、例えば、「世の中なんでもハイブリッド化しているよね」という「ハイブリッド仮説」を持っていたら、異分野の人との対話で「お、この人が言っているのは、何だかハイブリッドの話だ」ということに気付くじゃないですか。

今井 アナロジーですね。

川口 自分が持っているアナロジーがしょぼいほど、遠く離れた分野では通用しなくなるんです。その意味では、できるだけメタな仮説を持っていた方がいい。それは自分で気が付くに越したことはないけれど、本を読んだりして、自分の中で仮想化しておく必要があります。自分が得意な分野ではいろいろと具体例を挙げられるけれど、異分野では挙げられないということではボキャブラリーが貧弱になってしまう。