川口 嫌いな理由は、IoTの話をするときに描かれる将来像に「思考が怠惰」なものが多いからなんです。その典型は、例えば、電力のスマートグリッドです。「地球環境に優しいと、とりあえず言っておけばいいや」ということが透けて見える。もちろん、やらないよりやった方がいいとは思うけどね、中期経営計画的には。

 私が思うIoTは、人間とマシンのハイブリッド化なんです。人間の脳を一つのセンサーとして組み込んだシステムという定義が一番ぴったりする。分かりやすい例では、あるベンチャー企業がキックスターターで出していたものに感心しました。レンタル自転車のユーザーに、脳波を測定する簡易的なヘッドギアを着けてもらう。それでGPSと連動して、「クール」と思った場所は青くなって、「うざい」と思った場所は赤くなるという程度の乱暴なシステムなんだけど。

川口 盛之助(かわぐち・もりのすけ)
1984年、慶應義塾大工学部卒、イリノイ大学修士課程修了(化学専攻)。 技術とイノベーションの育成に関するエキスパート。付加価値となる商品サービス機能の独自性の根源を、文化的背景と体系的に紐付けたユニークな方法論を展開する。その代表的著作『オタクで女の子な国のモノづくり』は、技術と経営を結ぶ良書に与えられる「日経BizTech図書賞」を受賞し、英語、韓国語、中国語、タイ語にも翻訳される。台湾、韓国では、政府産業育成のための参考書として選ばれ、詳細なベンチマーク報告書が作成される。心をつかむレクチャーの達人としても広く知られる。TEDx TokyoにおけるToilet Talkは40万回再生という異例の反響を得ており、Yahoo Japanの動画サイトでは世界の傑作プレゼンテーション・ベスト5に選ばれる。世界的な戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトル・ジャパンにおいて、アソシエート・ディレクターを務めたのちに株式会社盛之助を設立。国内のみならずアジア各国の政府機関からの招聘を受け、研究開発戦略や商品開発戦略などのコンサルティングを行う。(写真:加藤 康)
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今井 人間の脳を「好き・嫌い」のセンサーに使うわけですね。

川口 このシステムが意味していることは深遠で、「なぜクールなのか」「なぜ退屈なのか」は気にしていない。答えは、「好きか、嫌いか」だけ。「その場所はちょっと高台になっていて見晴らしがいい」といった理屈は後からくるわけです。

 「怠惰な思考」では、その結果を「この場所は事故が多い」といった現世利益が分かりやすいところに結び付けがちです。その方が予算がつきやすいから。それはよく分かる。

 でも、本来はそうではないでしょう。「なぜクールなのか」というところは神様にお任せというか、大脳の奥底の人間宇宙にお任せで、「好き・嫌い」の答えが先に分かるわけです。そのためのセンサーは、脳を使うしかない。後から理屈がつくというのは、自然を理解しているというか、我々が考える方程式は後付けの理屈に過ぎませんという謙虚な印象があるでしょ? 答えは「脳様」にお伺いを立てますと。

山本 お、おう。

川口 それを実現しているシステムは、簡単なヘッドギアとGPSだけなんだよ。もし、最初から「事故」とかと結び付けようとしたら、本格的にドクターイエローみたいな専用車を走らせて、あらゆる情報を全部取得し、分析して…ということをやらなければならない。でも、そのベンチャー企業のシステムは、誰でも簡単なヘッドギアを着けてママチャリで走っていけば…。

今井 その程度で、結構なことが分かるわけですね。

川口 そう。何となくクールじゃないですか。恐らく、こうしたシステムが使われ始めると、多くの技術者がよってたかってさらに高度なシステムに高めていく。そこは1000人のうち999人に任せておけばいい。1000人に1人の好奇心を持った人は、そういうシステムの構造自体を思い付くんですよ。

山本 面白いですね。