川口 だって、お客さん側ではお客さんなりに同じことを調べたり、研究したりしているわけですよ。社会科学系や人文科学系のアプローチでメタレベルのトレンドを調べている。それをやっている人たちは、ある意味、その会社の中で貴族なんです。モノをつくったり、セールスしたりしなくてよくて、メタなことを考えるのが役目なわけだから。

 メーカー側は、専門分野のロードマップで稼げる時期が終わりつつある。だから、いきなりお客さんのフィールドに行ってみようとラボをつくるわけです。でも、結局は何も得るものがない。目では見えても脳には見えない。分からないんだよ。

今井 なぜ、分からないのですか。

(写真:加藤 康)
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川口 それは、メタレベルのことに興味がないからでしょうね。言語やプロトコルが違うので、相手の言っていることが理解できないんです。

 逆に言えば、例えば、銀行の勘定系システムの話を、銀行の枠を取り払って話し合おうというような取り組みを銀行側でも当然やっている。では、その人たちが人工知能にすごく興味があるかといえば、たぶんないですよね。財務省が次に何をやろうとしているかに興味はあっても。

 本来、メタレベルのことをやる誇り、つまり少しでも何か自分の研究や開発に絡めていくことの幸せというのは、別の分野のことをメタレベルで理解することにある。メタレベルで話すことで、異分野の相手とも対話して情報を共有できるようになるわけです。

 自然科学の学問の世界だけでもそうでしょう? ある専門分野の内輪話はほかの専門分野とは共有できない。でも、物理や数学のような、よりメタレベルの学問に引き上げれば、話を共有できるようになるじゃないですか。さらに範囲を広げれば、メタレベルの学問は心理学や哲学、情報学のようなものになるかもしれない。お互いの専門分野がそうならない限り、ずっと内輪話で終わってしまいますよね。

 異業種交流で何とかしましょうという話も最近よく聞くけれど、化粧品と自動車、エレクトロニクスの会社で開発をやっている人が漠然と集まって、ただ話をしても何も得ることはないですよ。でも、体系的にメタレベルに理解しようという好奇心があれば、一定の部分は共有できるし、新しいものが生まれてくる可能性がある。

今井 大企業にいる技術者も、やるべきことはまだ残っているということですね。

川口 そう。たくさんあるのよ。

山本 技術者としては、情報と機能を自分なりの体系に落とし込もうというところまでやらないと、ほかの専門分野の人とはなかなか話がかみ合いませんよね。