山本 エネルギー効率なんかどうでもいい話になる。今、研究者が取り組んでいるほとんどの技術開発は一掃されてしまうんですよね。場流れというか、トランプの大富豪で言えば、「2」を出されて流れちゃう。そんなノリです(笑)。

川口 最近は、「プロバイオティクスで腸内環境を整える」というような話が多いですよね。人間本来の免疫を高めようという流れです。でも、「免疫を高める」ということ自体は、赤ひげ先生が言っていたような昔からある話ですよね。

 もちろん、人工的にやろうとなると「鍛えた菌で腸内環境を整える」というような話になってくる。それを開発するプロセスでIT(情報技術)を使ったり、人工知能(AI)を使ったりするのかもしれないけれど、結局は昔からの議論の枠内から出てはいないでしょう?結局、やはり複雑系というか、自然界の法則にはかなわない。

山本 一郎(やまもと・いちろう)
1973年東京生まれ。1996年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。国際電気(現・日立国際電気)入社後、調査会社、外資系証券会社調査委託などを経て、2000年、IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行うイレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。ベンチャービジネスの設立や技術系企業の財務・資金調達など技術動向と金融市場、各種統計処理や分析業務に精通。また、対日投資向けコンサルティング、投資ファンドを設立。著書に『ネットビジネスの終わり (Voice select)』『投資情報のカラクリ』など多数。日本随一の時事・経済系ブロガーとしても知られ、産経デジタル『iRONNA』、ヤフーニュース『無縫地帯』、扶桑社『ハーバービジネスオンライン』など多くのウェブ媒体に時事解説を寄稿しており、有料メルマガ『人間迷路』を発行。2013年都市型高齢化検証プロジェクト『首都圏2030』を立ち上げ、現在東京大学客員研究員も務める。三児の父。(写真:加藤 康)
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山本 例えば、「口内環境」ってありますよね。一人ひとりは、固有の口内環境を脈々と持っているわけです。それを後から改善するために薬物を投与したりしても、結局は時間が経過するとかなりの割合で元に戻るんですよ。食べるものだけではなく、一人ひとりの粘膜の形質、つまり凹凸が特定の大きさの細菌が棲みやすいように合致するようになっていたりする。そうすると、その凹みに合った細菌は隠れて薬物や唾液からの攻撃にさらされても生き残るわけです。

 そう考えると「口内環境を根本的に改善するためには口内の粘膜の構造自体に作用しなきゃダメじゃん」という話になりますよね。じゃあ、粘膜を張り替えるのかと。実際には、口内には多い人で60億グループくらいの細菌の生態系が出来上がっていて、「そのうちの何億グループが善玉で、何億グループが悪玉か」を計算する必要が出てきます。

今井 無茶苦茶な計算量になると。

山本 そうなってくると、「人間が生きている環境や免疫系」「人間がどう適応してきたか」を機械的に画一的な仕組みで解き明かそうというのは、非常に無理な話です。生命の進化の過程というのは、遺伝子を解析したぐらいでは解決しないのだということが分かり始めている状態です。今、遺伝子工学も「一つひとつの遺伝子の働きはある程度分かったけれど、いろいろな遺伝子の関係性を考えようとすると組み合わせが膨大な量になってしまう」というところで同じように行き詰まっています。

 ある人は劇的に口内環境が悪くなって虫歯になるけれど、歯磨きなんかしたことがなくても虫歯にならない人もいるじゃないですか。

今井 確かにいますね。

山本 それが分かっている以上、似たような病状を持つすべての人に対して同じように口内環境を外形的にケアしてあげましょうとか、一発で解決する方法を考えましょうというのは難しい話になります。