今井 最近流行のマシンラーニングや、ディープラーニングなどの人工知能は、割とボトムアップのアプローチですね。

川口 ええ。ソフトウエアの領域ではね。

山本 人工知能(AI)の初期のころに「LISP」という初期のプログラミング言語が出てきて、その実装の過程でさまざまな変化を遂げて今も活用されています。その柔軟さ故に、50年以上使われ続けている言語体系なのですが、実装するために例えば人間が「知能とは何か?」を定義して、その定義に則って人工知能をつくっていこうというアプローチです。その取り組みで研究者たちは、人間が知能を構築することの難しさを知ったんです。

 その後に何をしたかというと、例えば人間が「こんにちは」と言ったら「こんにちは」と返してくる会話ロボットのコミュニケーションデザインに入っていったんですよね。そこでは、「AIと人間のコミュニケーションを繰り返していけば、知能を構築できるのではないか」という当初のアプローチとは全く逆の展開になってきた。

 そのころの人工知能といえば、キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』に出てくるHALという航行を司る人工知能コンピューターが反乱を起こし、陰謀を潜り抜けた乗組員がこの人工知能を解体する過程で、知性が退化していき、教えられた歌を歌い始めたりするわけですよ。コミュニケーションというか、情報の交換が知性を育てるという世界観と、今のグーグルその他が頑張って取り組んでいる世界観とは、知性をどう定義するかの本質のところで異なっていて、思想の歴史という意味で非常に興味深い事例だと思います。

 プログラムしたもので人間に応対して、人間との対話を求められていく中で適切な立ち居振る舞いを学習で構築していき、それによって人間らしく回帰していかざるを得ない。意外と人間のコミュニケーション自体がいい加減だったりして。

川口 「ビッグデータ」と呼ばれているものは、結局はひたすらそういう機能でしょう?

(写真:加藤 康)
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山本 そうです。

川口 それが音声認識などで意外にうまくいっちゃったんだよね。文法をきちんとひも解いた方程式をベースに“戦艦大和”をつくろうとする研究開発では、日本は先端を走っていた。いわばスパコン型ですよね。

 でも、「Siri」(米Apple社がiPhoneなどに用いている音声認識インタフェース)のようなアプローチが出てきて、愕然としたというか。「こういう入力に対して、こういう出力を返しておけばと何となく会話が成り立っている」というわけだから。それが分かると「結局、人間って何だったんだろう?」ということになる。認知工学の人たちは、「今まで何をやっていたんだろう」とガッカリしちゃいそうですよね。

山本 認知工学、ど真ん中ですよ。

川口 でも、実際はガッカリするというよりは、「それでよかったんだ!」というようになって、意外と簡単に実装できるようになっていく。