川口 「微細加工の構造物なら、俺らに任せろ」「次はMEMSだ、ナノマシンだ」と我がもの顔で頑張っていたエレクトロニクス分野の横に、いつのまにか誰かがいる。何者ですかと思ったら、医学系の人たちだった。医学系の人たちは、ある意味、人体という、より難しい、複雑系の事象を手掛けていたわけです。ただ、どちらかと言えば、帰納法で研究をしてきた人たちなので、物理的に演繹法でメカニズムを解明していくことは得意ではない人が多い。

山本 確かに、そういうところはありそうです。それぞれの分野で使う言葉も違いますし。

(写真:加藤 康)
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川口 逆に言えば、エレクトロニクスのように物理的にメカニズムを解明していくアプローチは、医学系の人たちにとってはとてもプリミティブなものに見える。今はそういう二つの領域がくっつき始めているという段階です。それをライフサイエンスと呼んでいるわけでしょう?

山本 そのライフサイエンス領域にいる医学系の人たちは、「これから我々の分野でも乾きものを扱うようになる」ということが分かってきた。今までの治療は「薬を患部に届ける」というアプローチでしたが、診断された病気を治すために効果的な物質を特定して、それらの効きそうな物質をブレンドしながら病気の寛解を目指すということも限界に近づいている。であれば、「損耗した人体の構造物を取り替える」「人間本来の回復力を補う」というような別の方向性になってくるんです。

 「マンマシン・インタフェースや、さまざまな回路で人間の構造を補助する、もしくはそのものを代替できるような仕組みの構造物に価値があるんだ」と最近、医学系の人たちは気づき始めた。一方で、エレクトロニクスやメカトロニクスの人たちが、そのライフサイエンス分野に入っていこうとすると、今度は医学系の領域のことを勉強しなければならないんですね。これはこれで、ハードルが高い。

川口 そう。まずは言葉の壁があるからね。本当に難しい。

山本 エレクトロニクスが最も付加価値を生んでいた超微細加工の先は、「乾きもの」と「なまもの」の境界領域に行き着くわけです。いわば、人体の部品をつくる試みというか。

川口 ロボットは、アルゴリズムがないと動かない。すべて演繹的にできていますよね。まずは汎用的な法則を省いて、状況に応じた動作をフィードバックするのがロボットの基本的な仕組みです。それを長年かけて積み重ねた結果だけを見ているから、ロボットの研究者は医学系のようにボトムアップで自己組織的に何かをつくろうという発想があまりない。

山本 ないですね。