川口 人工臓器のようなものをつくったときに1g当たりの単価としていくらのものができるんだろうね。今、半導体リソグラフィーに使う最先端の液体は1リットル当たり200万円とか、そういうオーダーでしょう。まさに超高級ワインと同じ世界ですよ。

 例えば、カスタムメードの人工肝臓ができたとしたら、それよりも絶対に高額ですよね。ウルトラ金持ち用です。たぶん、グラム単価で考えると、べらぼうに値段が高い。何しろ、人命が懸かっているから。

 セメントなんて、何十億トンを生産する代わりに1kg当たり1円というような世界ですよね。人工臓器は、その対極にあるわけ。年間1kgしかつくらないけど100億円みたいな最先端のバイオ創薬の世界に近い。人工臓器は単なる医薬品とも違っていて、どちらかと言えば電子回路に近い構造体でしょう。人類がつくり出した一つの構造体としては、グラム当たりの価値が史上最高の水準になるだろうね。

山本 人工臓器を実現する技術はそう簡単なものではないですが、試みとしては、既にいくつか実用段階に入っている方式としてセラミックスなどに細胞のような分子構造物を吹き付けていく研究がありますよ。臓器のコアの形をつくって、培養する液体の中にドボンと入れるわけです。そうすると、細胞が分裂して何日かすると臓器の塊に…。

川口 それって、「巨神兵」(「風の谷のナウシカ」に登場する巨大な人口生命体)じゃん(笑)。ドクドクと動くんでしょ。

山本 その臓器に栄養を引き込むために血管も自己組織化で勝手にできていく。大きく育ったら、手術で問題になっている臓器を取り出して、培養した人工臓器に入れ替えるわけです。

山本 一郎(やまもと・いちろう)
1973年東京生まれ。1996年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。国際電気(現・日立国際電気)入社後、調査会社、外資系証券会社調査委託などを経て、2000年、IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行うイレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。ベンチャービジネスの設立や技術系企業の財務・資金調達など技術動向と金融市場、各種統計処理や分析業務に精通。また、対日投資向けコンサルティング、投資ファンドを設立。著書に『ネットビジネスの終わり (Voice select)』(PHP研究所)、『投資情報のカラクリ』(ソフトバンククリエイティブ)など多数。日本随一の時事・経済系ブロガーとしても知られ、産経デジタル『iRONNA』、ヤフーニュース『無縫地帯』、扶桑社『ハーバービジネスオンライン』など多くのウェブ媒体に時事解説を寄稿しており、有料メルマガ『人間迷路』を発行。2013年都市型高齢化検証プロジェクト『首都圏2030』を立ち上げ、現在東京大学客員研究員も務める。三児の父。(写真:加藤 康)
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川口 結局、これまでは構造に価値があるものの中でエレクトロニクスが最高の付加価値を備えていたと思うんです。 

山本 そうですね。

川口 半導体の微細加工は、もっぱらトップダウンで切り刻んでいくタイプでしたよね。それを突き詰めていくと、必ず物理限界が見えてきます。そのタイミングで研究者の関心を集めるポイントが変わってくる。「今度は、ボトムアップのアプローチで何かあるだろう」と。ボトムアップで構造体をつくるには、セルフアライメントが大切だというような話になって。

 目を転じると、「なまもの」を扱うライフサイエンスはセルフアライメントの塊ですよね。ボトムアップに自己組織化していくわけだから。その「乾きもの」と「なまもの」の接点がぶつかり始めたのが、この10年くらいです。先ほどの人工臓器は、まさに「なまもの」と「乾きもの」のハイブリッド品じゃないですか。