モバイルデバイスの医療応用への利用価値

2015/01/07 00:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

 健康機器群・介護用機器群なども包含した広義の医療機器群は、今、本流とは別の大きな横風を受け、その渦に巻き込まれようとしている。望むと望まざるとにかかわらず、避けては進めない選択が迫られている。医療機器業界にとっても、かつて経験したことのない新しい方向へのかじ取りが重要な時期に直面しているのだ。

 折しも、医療機器センター附属 医療機器産業研究所から「モバイルデバイスの医療応用に関する調査」というリサーチペーパーが発行された。その内容紹介とともに、モバイル機器とそれに関わるソフトウエアの動向などに着目してみたい。

実例豊富なリサーチペーパー

 これまでの「医療機器」の展開を踏まえると、最近の外的要因によって大きな分岐点に差し掛かっているというのは偽らざる事実であり、これは近未来への動きとしても大きな転換期になると予想できる。

 今回発表されたリサーチペーパーNo.13は、同研究所 主任研究員の鈴木孝司氏によってまとめられたもので、最新モバイル機器の医療などへの応用実態が豊富な実例とともに紹介されている。特に注目されるのは、主として米国における機器やシステムなどが36例も取り上げられている点で、これらはモバイルデバイスの世界でも最先端を行く同国の実情を反映している。

 これまでの医療機器全体の動向を見ても、また、医療そのものの推移を俯瞰してみても、目新しいものはあまねく米国がリードしてきた。その観点からすれば、医療機器関連や健康機器関連の分野でも流れは米国から、というのが厳然たる実情である。従って、現時点での米国の現状が近未来の日本へ波及することは目に見えており、そこから学べるものも少なくない。

 リサーチペーパーの着眼点を挙げるなら、FDAつまりは規制側から見た「医療機器」と「非医療機器」、さらにはそれらに達しない「研究段階の機器」などに分類して紹介されていることだろう。この境界に関する議論は、本コラムでも何回かにわたって指摘しているとおり、日本でも重要な課題なのである。従って、他国の例とはいえ、その議論に対する「一つの解釈」を与えてくれているため、今後の議論への貴重な参考材料になる。

モバイルデバイスの医療応用に関する調査

 この分類の中では、「B. 医療機器ではあるものの十分に低リスクであるため規制対象外とするもの」が6品目リストアップされている。定義として、「医療機器に分類される可能性はあるものの、利用にあたってのリスクが十分低いために規制対象外となっているケース」となっている。それには「喘息発作と吸入治療記録」「薬剤投与量計算」「点滴速度調整」といった純医療目的のアプリが含まれている。

 これら3例が示すのは、明らかに医療機器や薬剤に関するアプリであり、病院における医療としての応用例でもある。したがって、疑いもなく法律用語としての医療機器に該当するといっていいだろう。

 FDAでの判断なのか、メーカーの自己判断なのか不明だが、限りなく“医療機器”に近いといわざるを得ない。こうした実例が堂々と発表されていることからすれば、メーカー責任としての色合いが強いが、我が国での議論に関しても一石を投じてくれたと感じている。

厳格派の意見ばかり尊重するならば…

 これに類する実施例、つまり本体が医療機器でアプリがスマホなどの汎用機器上のソフトというケースは、今後も確実に増えるだろう。本体側が医療機器であってもソフトウエア側は非医療機器扱い、という二重構造にどう対応していくのか。

 こうしたケースにおいて、逐一、医療機器として申請手続きなどを忠実に実行するべきという厳格意見も出てきそうだ。しかしながら、米国での成り行きを見るにつけ、本心を暴露するなら、じつはホッとしているのは筆者だけではあるまい。というのは、もしも厳格派の意見ばかり尊重するなら、新しい機器開発という側面に大きな打撃を与えてしまう危険性があるからだ。

 これらの実例によって学ぶことも多い。本来なら、この分野でもまた米国に先を越されたというジレンマは残る。しかし、そうなった以上、素直に割り切って、よいところを学び取ればいいのではないのか。二番手だからこそメリットが出てくる、と考えたらどうなのか。

 決してすべてを真似すればよい、というわけではない。しかしながら、このリサーチペーパーが示唆するように、こうした有益な最新事情を積極的に受け入れ、それを土台にして近未来の医療機器・健康機器とモバイル機器とのかかわりを追求していけば、我が国の医療機器産業界にとってもプラスになることが多いと感じている。