パルスオキシメータ開発に見る日米主導権争い

2014/06/17 00:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

 近年の医療機器産業の中で比較的新しく開発された商品に、パルスオキシメータがある。アイデアは日本で創始されながら、産業としての見地からは米国に押され気味の製品の具体例だ。今回は、その開発過程からなぜそうなっているのかについてコメントし、将来に向けての展望を占ってみたい。

ヒット商品になったパルスオキシメータ

 これまで、パルスオキシメータの開発についての記事は多岐にわたって記述してきた。だが、こと事業化・商業化を決断した人物に関してとなると、筆者の想像の域を脱している。一人の医師なのか、メーカーのエンジニアなのか…。今、それを知るすべがない。

 古典的パラメータの並ぶ生体情報の中では比較的新しいパルスオキシメトリーだが、現在では大きな活躍の場を得ている。この状況が生まれた背景には、言葉は悪いがそれを「仕掛けた人間」の存在があるはずだ。それなくして、自然にヒット商品ができあがるなんてことはあり得ない。

 もしかしたら、その人物さえそれが大きな仕掛けであったことを意識してなかった可能性はある。しかし、その企画力のすごさをいうなら、そう多くは存在しない事例だろう。

 ともあれ、パルスオキシメータはまず米国で商品化され、その後、アイデアが生まれた日本へと“逆輸入”する形で入ってきた。そして、全世界へと展開され、大きな市場を築いていった。当初、麻酔科での術中管理や新生児管理を主目的としていたが、次第に広い医療分野で有効利用されるようになり、今日の繁栄に繋がったことは周知の事実だ。

医療機器開発における日米格差そのもの

 下表は、パルスオキシメータのアイデア・発明から商品化、その後の改良・改善などの各段階での開発状況について、米国と日本の対比を試みたものである。

パルスオキシメータの各開発段階における日米対比(図:筆者が作成)
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 ある意味では医療機器開発に対する日米の考え方や事業化の違いを如実に示すもので、特徴的な傾向が読み取れる。本来、我が国で発明された製品なので、臨床テストをはじめとする商品化へのステップにおいて優位であるべきはずだったが、いわば逆の展開になった理由は何なのだろう。

 前回までのコラムでは、一般論としての「医療機器事業化への心構え」に関して日米格差が大きいことを指摘してきた。その具体例を、この表が示しているように思えてならない。その意味からも、パルスオキシメータの事業化を思い立った人物あるいは組織の考え方がすばらしいといえる。こういう商品化企画こそ、真の「開発力」といえるもので、パルスオキシメータを有用な医療機器として根付かせた事実が如実にその根拠を表現している。

汎用化で巻き返した日本

 やや古い話を持ち出すことになるが、筆者の書いた『健康を計る』(講談社・ブルーバックス、1993年刊)の中に、パルスオキシメータの簡易化・小型化といった汎用化への要望がある。当時、数千台程度の市場だった同機器の将来性について、さらなる普及を見込める「条件」を示す狙いがあったからだ。

 この“要望”に応えてくれたのは、どちらかといえば日本のメーカー群だ。「ものづくり」という観点からすれば、適当なテーマだったことを裏付けている。

 昨年度(2013年)の日本市場は12万台に達したというデータがあり、ここ20年で2桁ほどの市場拡大となった。汎用機器としてのパルスオキシメータの市場拡大は、米国より一歩リードした感がある。そして、この日本市場の拡大を後押ししたのは、パルスオキシメータの汎用化で先行した国内メーカーに他ならない。ただし、この汎用品市場の拡大競争は、ここにきて中国メーカーの台頭もあり、国内メーカーも安閑としていられない状況に置かれていることも事実だ。

未来への開発も不可欠なパルスオキシメータ

 一方でパルスオキシメータには、汎用化とは裏腹に、真の医療機器として要求される「測定精度の向上」や「応用パラメータの開発」という要求もある。こうした要望への対応に熱心なのは、現在のところ米国企業だ。

 これまでの基本技術からすれば、パルスオキシメトリーに使われている光の波長は2種類である。ところが、その発展型としての新パラメータ、たとえば一酸化炭素や総ヘモグロビンの計測となると7種類ほどの多波長を利用する方法論が支配的となっている。当技術を駆使してこのニーズ分野への進出を狙って商品化にこぎ着けたのが、米Masimo社なのである。

 さらに、未来的な予測をするなら、今後のITとの結び付きが必須になってくる分野が残されている。この領域は、介護や健康分野への適用が期待され、その有力候補こそパルスオキシメトリーだと推測される。

 この新領域にどういう企業が興味を持つかは、現時点では未知数だ。とはいえ、既に競争は始まっている。その意味からしても、パルスオキシメータはまだ完成品とはいえない。誰もが注目する新分野への仕掛けをするのは果たしてどこなのか。興味津々というところである。