STT-MRAMは、スピン注入磁化反転(spin transfer torque:STT)と呼ぶデータ書き換え技術を用いた磁気抵抗変化型メモリー(MRAM)のことである。不揮発性で動作速度が速く、書き換え回数が無制限という、半導体メモリーとして理想的な性能を備える。ただし現時点では、既存メモリーに対するコスト競争力を持てていない。今後、微細化による大容量化を進めるなどしてコスト競争力を高めることができれば、既存メモリーの置き換えが視野に入る。

 STT-MRAMに期待されているのは、電子機器の主記憶やキャッシュに使うDRAMやSRAMを置き換えて不揮発化し、消費電力を大幅に低減するという応用だ。「ストレージ(HDDやNANDフラッシュメモリー)は不揮発性、それよりも階層が上位のメモリー(DRAMやSRAM)は揮発性」という従来のコンピューター・アーキテクチャーを一変させる可能性を秘める。

 従来型のMRAMは、米Freescale Semiconductor社が2006年に量産化し、産業機器などで既に実用化されている。ところがこのメモリーは、微細化による大容量化が難しいという課題を抱えていた。データ書き込み線に電流を流し、その周りに生じる磁界でデータを書き換えるという方式を採用しているためだ。この方式では、微細化するほど書き換えに必要な電流が大きくなってしまうため、書き換え電流を供給するトランジスタの寸法を小さくできない。これが微細化のボトルネックになる。

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STT-MRAMの動作原理(東芝の資料)

 これに対してSTT-MRAMでは、MTJ(magnetoresistive tunnel junction)と呼ぶ記憶素子に流す電流でデータを書き換える。電子スピンのトルク作用でMTJの磁化の向きを反転させるという動作原理を使う。この方式の優れた点は、微細化するほど書き換えに必要な電流が減る点だ。このため、微細化によって大容量化しやすく、Gビット級のメモリー容量に手が届くと期待されている。ただし、微細化に伴って素子の特性ばらつきが増大するなど、克服すべき課題は残されている。

 実は、STT-MRAMの商用化は既に始まっている。Freescale社のMRAM部門がスピンアウトした米Everspin Technologies社が市場投入済みだ(関連記事1)。現時点では64Mビットといった小容量にとどまっており、市場拡大に向けては大容量化が求められる。

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