2014/05/08 00:00
久保田 博南=ケイ・アンド・ケイジャパン 代表取締役社長(医工連携推進機構 理事)

 我が国の医療機器産業を加速させるにはどうしたらよいのか。業界人なら誰もが考えているだろうが、意外な落とし穴に気付いていない。前回のコラムで提示した米国企業との比較を引き合いに出しながら、この難題解決に一石を投じてみたい。

「研究課題解決」だけでは商売にならない

 市場調査から始まる産業戦略については、日夜、頭を巡らせている人たちも多い。その過程の中ではまりやすい「調査研究段階」での問題点について考えてみることにしよう。

 図1は、典型的な医療機器開発の一例で、ビジネスとしては成り立たない失敗のケースを示す。

図1 調査・研究段階に開発工数(赤線)を集中させすぎてしまうことで、結果として売上げ・利益(青線)の確保につながらないケースを示したグラフ。(著者が作成)
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 入念な市場調査をはじめとして、いざ取り掛かった基礎研究を続けながら、なかなか本論まで至らない例だ。本論とは、とりもなおさず商品化に向けた集中開発体制を意味している。オーソドックスな方法論でありながら、実は見かけ倒しでお勧めできない事例でもある。特に、真面目なエンジニアリング思考で、まともに入口から入ったまま立ち往生しているような感じだ。
 30万種以上もあるといわれる医療機器産業の世界では、非常に頻繁に見られるケースでもある。突破口を探すための工夫が強く求められる典型的な事例だ。開発者本人が気づいていない場合も多いので、時機を見て、経営管理者や第三者の助言も必要となる。

 単純なサンプルを出すなら、「新しい生体情報の測定技術」の開発者が自己満足と思える「精度目標」を設定して、製品化に踏み切れないでいるようなことがある。それを「課題解決テーマ」と位置づけて、「商品化への方策」が二の次になってしまっている。

「出口から入る」ことも覚えないと

 もしも、他に競合製品があり、しかもユーザーニーズも確立してしまっているような製品なら話は別だ。それにも基本スペックで及ばない項目があるというなら、早目に断念したほうがベターだ。

 本当の問題点は、「課題解決事項」が他にも存在することを認識できないことにある。もしも「測定精度」で劣るなら、使い勝手の向上や低価格化による普及版への道があるかもしれない。多種多様な医療機器においては、求められる要求事項も千差万別、そのための柔軟な頭の切り替えも必要だ。

 逆説的な表現になるが、時には出口を想定して今いる入口に向かってみるのも一法だ。目標点がはっきりと認識でき、問題点も明確になる。

「争点」は一つではない

 開発時における課題解決とは、商品化に向けた総合戦略を意味している。製品開発の初期にのみ存在すると勘違いしている向きも多いが、本来は企画・基礎研究から生産化設計といわれる一連のステップにおいて、常に試行錯誤を繰り返すべき必須要綱だ。
 測定精度の目標値が達成できないようなケースでは、センサーの取り付け方法とか方式に解決策が隠されているようなケースもある。これは、ごく一例に過ぎないが開発担当者自身より、管理者やアドバイザー、またユーザーや第三者などの意見・見解が有用なこともある。もしも、競合製品としての既製品が存在するなら、貴重なお手本としての勉強材料になる。

図2 商品化設計や生産・販売など、開発ステージの後段にも開発工数(赤線)を積極的に投資することで、結果として売上げ・利益(青線)の確保につながるケースを示したグラフ。(著者が作成)
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 図2は、実践的な開発体制による医療機器の商品化モデルを示した。実用化に向けた開発体制に力点を移し、弾力的な課題解決を実行する。

 他社にないセールスポイントを探す際に注意しておくべきことは、「争点」は一つではないということだろう。決して逃げ道を与えようなどとは思わないが、「すべての点で一位になる必要はない」ということなのだ。

 とはいえ、医療の向上にも直結するような製品が、たやすく開発できるといった甘い夢は禁物である。世界のあらゆるメーカーがしのぎを削るような状況下にあっては、思い切った経営判断と努力が求められる。時には、成功例を多くこの世に出し続ける米国企業の施策を謙虚に見習うことも重要である。