「主役になりそこねた」フランスの賢人が吐露する悲哀

 では、「無気力に陥って二度と立ち上がれなくなる」と予測されてしまったフランスの賢人はどう考えているのか。「ヨーロッパの知」と称されるジャック・アタリにその答えを求めてみたい。

 彼は著書『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』(作品社、2008年)で、多分野にわたるふんだんな知識を縦横自在に編み込んで、オープン化する世界や、多極化する世界の行方を見事に叙述している。人類史や政治経済に関する圧倒的な知識量はさすがで、読み応えと説得力十分の名著と言えよう。読後には、例えれば荘厳なクラシック音楽を聴き終えたような余韻が残る。

 だが、行間にあふれだす情念の部分についていえば、拍子抜けするほど単純で分かりやすい。そこにはチャンピオンになり切れなかったフランスの悲哀が満ちており、英米へのコンプレックスとジェラシーが渦巻いているように私には感じられた。

 世界の中心がどのように移ろっていったか、そして今後どうなるかについて様々なファクトを積み上げ精緻に分析していく。そのうえで「なぜフランスは過去にあったチャンスを逃したのか」を検証し、「これからもフランスには2度とチャンスが巡ってきそうにない」ということを残念そうに解説している。

 わが世を謳歌する米国に対しては、悔しさを隠し切れない。冒頭から米国を「アメリカ帝国」、巨大な富を米国にもたらしたインターネット世界を「アメリカの植民地」と呼ぶ。リアル世界に加えて仮想世界でもフランス語が世界標準になれなかった怨念が文章に散りばめられているようだ。

 アタリは、その憎き帝国アメリカによる世界支配も一時的なものにすぎず、2035年以前に終焉が訪れると予言する。最終的に米国は北欧型の社会民主主義の国になるか、独裁国家になるのだという。

 12世紀ころはヴェネチアだった世界の中心都市が、欧州の西端ロンドンから新大陸のボストンへと西進を続け、提唱する西進理論によれば21世紀には西海岸のカリフォルニアを離れて遂にアジアへと移動するはずだと予言しつつも、現状の日本や中国の様子を見ると、やはり当面は米国にとどまるかもしれないと弱気になる。過去の経緯の説明に関しては弁舌さわやかに切れまくっていた論理も、今後の世界の中心の移行に関しては結局のところ結論が出ない。

 そのアジアに関しては、前述著作のように、アンチ米国が高じて中国礼賛に走ることもなく、日本礼賛に落としどころを見つけようともしていない。アタリは唐突にも韓国絶賛論に走るのだ。彼の理論では、今後のアジア最大の勢力となるのは韓国であるとし、2025年までに1人当たりのGDP(国内総生産)で日本の2倍になるのだと予測する。

 韓国モデルは新たな経済文化のお手本となり、テクノロジーと文化性が世界を魅惑するのだそうだ。アジアの新興国はおろか日本や中国さえ韓国モデルをこぞって模倣するようになるとまで言い切る。西洋史分析が精密を極めているだけに、このアジアに関する分析はずいぶん雑に感じる。