医療費の増大は、日本をはじめ、少子高齢化が進む先進国で共通の社会的課題だ。日本では、都市部を中心に一人暮らしの高齢者が孤立死する問題も深刻化している。

 こうした課題を解決する手段として大きな関心を集める技術分野が、ICT(情報通信技術)を用いた健康管理サービスや高齢者の在宅見守りサービスである。ICTと医療を融合して病気になる前の段階で未然に防ぐ予防医療や、高齢者にほとんど意識させることなく遠隔地から様子を把握する環境を実現する。

 市場を起点にしたロードマップを体系的にまとめた技術予測レポート「テクノロジー・ロードマップ 2014-2023」の著者の一人で、予防医療のトレンドに詳しい奈良女子大学 社会連携センター 特任准教授の梅田智広氏は、なるべく利用者が意識せずに継続利用でき、費用対効果の高いサービスを提供する環境づくりが肝要と見る。(日経BP未来研究所

健康年齢を向上させる大きな役割

 ICTを駆使した健康管理サービスと、高齢者の在宅見守りサービスは、超高齢社会に向かう社会の課題を解決するカギになる。いずれも自立して生活できる健康年齢を向上させる上で大きな役割を果たすからだ。

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米Nike社のリストバンド型活動量計「Nike+ FuelBand SE」。加速度センサーを内蔵しており、スマートフォンなどのアプリと連動して歩数やカロリーなど毎日の活動を記録・管理できる。スマートフォンとセンサーの連携によるリアルタイム計測の例である

 これらのサービスは、センサー技術や生活支援基盤システムなどを軸に今後、次第に融合していく。この数年で利用者を増やしているSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などと連携しながら、数年で社会に定着していくだろう。

 健康管理向けのソフトウエアやインターネット関連サービスなどの市場規模は、2015年に日本国内で約900億円と見込まれている。高齢者向けの緊急通報や見守り・安否確認サービスの市場規模は、独居高齢世帯の増加と高齢者住宅の戸数増が市場成長をけん引し、2020年に約130億円に成長する見通しだ。

 こうした期待が高まる背景には、増え続ける医療費の問題がある。平均寿命の伸長と高齢化に伴い日本の医療費は年々増加し、2012年度には38兆円に達した。その38%は国や地方自治体が負担しており、財政を圧迫している。国民一人当たりの医療費は、この約60年間で実に110倍となった。

 病院での長期入院患者は増加しており、その費用は医療費の40%を占めている。臨床ベッド数は都市部を中心に足りない状況にある。厚生労働省は入院期間の短縮と在宅医療の促進に向けて取り組んでいるものの、今のところ十分な対応・対策は実行できていないのが実情だ。

 ICTを活用した健康管理や在宅見守りのサービスは医療費の抑制につながるだけではなく、将来的には家や施設、地域の生活環境をより快適・安心・安全なものに変える可能性を秘めている。新たなサービスの創生はビジネス機会を生み出し、地域自治体の活性化や健康・医療を配慮した街づくりが実現するだろう。

 予防医療では、医療費高騰の要因になっている生活習慣病の罹患者を低減する方策が必須である。そのためには、日々の自己の状態を正しく知る技術、つまり体重や血圧、心拍のようなさまざまな生体情報を継続的にモニタリングできる技術やシステムの開発が求められる。これにより、「どれくらい病気になりやすい状態か」などが分かり、体調や意向に応じた健康の増進、病気の予防が可能になる。