2012/08/10 14:58
真野 俊樹=多摩大学統合リスクマネジメント研究所教授 医療リスクマネジメントセンター所長
写真1:華西村が誇る5つ星ホテル「華西竜希国際大酒店(Longxi International Hotel)」
写真1:華西村が誇る5つ星ホテル「華西竜希国際大酒店(Longxi International Hotel)」
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写真2:村役場、幼稚園、診療所などが入居しているビル
写真2:村役場、幼稚園、診療所などが入居しているビル
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写真3:創始者メンバーが住む家
写真3:創始者メンバーが住む家
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 人口減少を迎え経済が停滞している日本に比べ、人口も多く経済成長著しい中国に対して進出したいという組織が多い。その中に、政府の新成長戦略にうたわれている医療や介護産業の進出もある。特に、超高齢社会を迎えつつある高齢化先進国の日本においては、さまざまなノウハウが蓄積されており、海外に打って出るあるいはメディカルツーリズムのように海外から日本に顧客を呼び込むといったことが可能であろう。今回から4回に渡り中国の最新事情を紹介したい。4回目は中国クリニックに勤務する、海外の医師免許取得の日本人医師からのインタビューについて報告する。

華西村

 上海から高速道路を走ると、突如巨大な塔が見えてくる(写真1)。これが、華西村が誇る5つ星ホテル「華西竜希国際大酒店(Longxi International Hotel)」である。さらに進むといくつかの古色像然とした塔が見えてくる。これらの塔のビルに、村役場、幼稚園、病院(正確には診療所と人間ドック施設)、事務所等が入居している(写真2)。

 華西村は、欧米型消費文明への共産主義中国によるアンチテーゼともいえる村だ。2009年には中国世界記録協会により中国で最も豊かな農村として認定されている。なお現在は、農業としての収入はほとんどないとのことだ。

 1961年に村が発足した当初は、面積0.96平方キロメートルと小さな村で、人口も数百名。1人当たりの平均年収はわずか53元であったという。現在82歳の呉仁宝前党書記が資本主義の手法を取り入れて、この村の発展は始まったといわれる。しかし、トウ小平の指導体制の下で、1978年12月に開始された改革開放以前のことであり、どうしてこのようなことが可能であったのかは分からない。

 現在は、村にある企業の売り上げは600億元(1元13円とすれば7800億円)。58の企業があり、60億元あまりの固定資産を持つ。中心となる産業は鉄鋼と繊維で、最近はこれらに観光も加わった。面積は、35平方キロメートルに拡大し、人口も約3万人と増えた。

 毎年200万人の観光客があり、中国国内や香港、台湾からのお客が多く、日本や欧米からのお客はほとんどいない。これは、この村が中国の成功の一つのモデルとして、観光客を集めているためでもある。観光関連の売り上げは年間2億元(1元13円とすれば360億円)という。

 1500人(360世帯)の「創始者メンバー」は現在、仕事を持っていない。それでも株主として一人当たり5.2億円の売り上げがあり、配当収入を得ている。配当の90%は再投資に回すものの、残りの10%でも800万から1000万円程度の現金収入があるという。

 この1500人の創始者メンバーとその家族は、メルセデスベンツなどの高級車を無料で支給され、それぞれが500から600平方メートルの敷地に豪邸を建てて住んでいる(写真3)。

 一方、後からこの村に来て働いている約3万人の人々にはそのようなメリットはない。集合住宅を無料で与えられ、給与をもらって村のために、たとえばガイドとしてやホテルで、レストランで働いている。

予防医学を普及するための診療所

 この華西村には、村の発足当時の1500人すべてが無料で診療を受けられる診療所を2007年に作った。院長は33歳と若いが、もともとこの華西村出身なので、村のために戻ってきた医師である。

 中国では、都会の富裕層を除いて健康診断や人間ドックを受けて自らの健康管理や健康増進に努めるという習慣はない。

 それを変えさせたいというのが中国のモデル村である華西村の「華西健康中心」の目標でもあり、この村では年に2回の人間ドックを行っている。村の創始者たち以外は有料で、1回コースによって100元から1000元単位で料金を支払っている。ちなみに、この診療所にはPET(positron emission tomography、陽電子放出断層撮影)-CTが装備されている。通常、このPET-CTを使って検査を受けるには7500元かかるが、それでも1日平均12人の受診者がいるという。

 この村の診療所は、人間ドックが中心で、いわゆる治療はあまり行っていない。風邪や腹痛といった患者を診察する程度だという。重症の患者は近くの病院(通常は20?離れた江陰病院)を紹介する。村ではそのための救急車を保有している。さらに最重症の患者は、上海の軍関連の病院である長海病院を紹介することになっている。紹介された場合には、通常の中国の医療保険扱いになるので有料だが、金持ちであるためVIP扱いとなり、長蛇の列を待つことはないとのことである。

 救急医療には課題がある。夜間、この診療所は診察していないため、近くの病院に救急車などで行かなければならない。

 村民のうち、創始者の1500人は、この村に住んでいる限り(息子が嫁を貰えばその嫁も)配当収入がある。そのため、台帳での住民管理が徹底している。結果として、健康情報も電子データで管理することになっている。現在は疫学研究を行っているわけではないようであるが、九州の久山町で行われているコホート研究も不可能ではないだろう。

 介護は原則、家族が行っている。この村の富裕村民は核家族ではないからできることである。

 村では医師開業の自由はなく、ほかに診療所ができることはない。診療所は5階建てで、医師は20人、看護師は80人で、1日の患者数は80から100人という。村から、年間1000万元(1億3000万円)の補助金が支給されている。