世界最大の半導体メーカーもファウンドリ事業を積極的に

 半導体メーカー・ランキングの上位2社、Intel社とSamsung Electronics社は、設計と製造の統合を基本としてきた。Intel社はパソコン向けマイクロプロセサ、Samsung Electronics社は同じくパソコン向けメモリーの最大手だ。その生産規模が自社生産ラインの償却を可能にしてきた。

 しかしSamsung Electronics社は大手ファウンドリでもある。同社の2012年の半導体事業の売り上げの伸びは前年比でマイナス4%だったのに対し、ファウンドリ事業は倍増、世界第3位のファウンドリに躍進した ["Samsung Jumps to #3 in 2012 Foundry Ranking," IC Insights Research Bulletin, Jan. 15, 2013]。

 そのうえ世界最大の半導体メーカーIntel社も、これからはファウンドリ事業に積極的に取り組む。2013年11月21日の投資家向け説明会で、そう宣言したという[小島、「Intel、売り上げ首位を維持するも、"新事業"の製造受託に本腰」、Tech-On!、2013年11月26日]。既に同年2月には、米Altera社が、同社将来製品の生産をIntel社に委託している["Altera to Build Next-Generation, High-Performance FPGAs on Intel's 14nm Tri-Gate Technology," Altera Press Release, Feb.25, 2013]。

 純粋の統合メーカー(IDM)は事実上、存在しなくなるということである。半導体産業における設計と製造の分業は、ここまできた。

半導体の設計と製造の分業についての私的な思い

 半導体分野の設計と製造の分業について、私の思いは複雑である。自慢したい気持ちと悔しい気持ちとが相半ばする。

 集積回路における設計と製造の分業には必然性がある。私がこう意識したのは1980年代の前半である。取材の場や学会などで気になることが起こっていた。集積回路の製造技術に従事している技術者と、同じ集積回路の設計者とでは、興味や関心が、ひどく違ってきたのである。「設計技術者と製造技術者は、もはや文化が違い、コミュニティーが違う」。こんな発言を国際会議で聞いて、この現象を私は記事にした[西村、「設計-プロセスの分極が深刻化」、『日経エレクトロニクス』、1983年10月24日号、pp.88-92]。

 集積回路における設計と製造の関係は、雑誌の編集と印刷の関係に、よく似ている。このことに私はすぐ気づいた。私自身が当時は出版社に勤務し、雑誌の編集に従事していたからである。雑誌では、編集は出版社、印刷は印刷会社の分業となっている。その最大の理由は、印刷機の減価償却コストだ。それを巨大少数の印刷会社が担い、群小多数の出版社から印刷を受注して印刷機の稼働率を高め、印刷機コストを償却する。

 集積回路の設計と製造も、同じ形の分業を採用したほうが合理的なのではないか。1980年代のなかごろには、こう考えるようになる。単行本[『硅石器時代の技術と文明』、日本経済新聞社、1985年、および『半導体産業のゆくえ』、丸善、1995年]でも、そう書いた。また講演などでも繰り返し、分業の必然を説いた。

 1980年代の後半になると、集積回路における設計と製造の分業は、世界的に大きな潮流となる。世界の半導体産業は私の説く方向に動いていた。以上は一種の自慢話である。

 しかし日本の半導体メーカーは、設計と製造の分業を嫌い続ける。「理屈ではあなたの言う通りだと思うよ。でもウチの会社じゃ無理だね」。何人かの半導体メーカー幹部が、私的な席では私にそう告げた。私の主張は、日本の半導体経営を動かすには至らなかった。そして日本の半導体産業は衰退していく。

 ジャーナリストとしての私の言葉の力が弱かったせいに違いない。今になって、無念にも私はそう思う。ここまで日本の半導体産業が衰退すると、さすがに悔しい。私の言葉はなぜ届かなかったのか。その反省を込め、半導体産業における設計と製造の分業を、産業構造の視点から考え直してみたい。