本連載では、テクノ・システム・リサーチ(TSR)のアナリストに、スマートフォンやカメラ、センサなどの市場動向に関するレポートを寄稿してもらう。第6回は車載用途などへの普及が期待されている非冷却遠赤外線カメラ市場の動向について、同社 アナリストの高澤里美氏が分析する。(日経BP半導体リサーチ)

非冷却遠赤外線カメラの各種定義

 遠赤外線カメラとは、対象物が発する波長領域7.5~15μmの放射エネルギー(熱)を検知し、微量な温度変化を電気信号に変換して画像表示するカメラを指す。従来は軍需向けを中心とした高額品の冷却型遠赤外線カメラが大半を占めていたが、室温で動作する非冷却タイプの遠赤外線アレイ・センサが登場したことにより、非冷却タイプの遠赤外線カメラの開発が進展、民間向けに活用できる条件が整ってきた。最近では、欧米自動車メーカーの高級車を中心にナイトビジョン(夜間時にも人物や動物の熱(赤外線放射エネルギー)を検知し画像表示する)向けに非冷却遠赤外線カメラの搭載が徐々に進んできており、今後の民間向けへの商機拡大のターニング・ポイントとして注目されている。

 こうした市場の流れを受け、TSRでは本市場に関する調査を実施した。その際、非冷却遠赤外線カメラの定義として、波長領域を7.5~15μmとし、熱検知画像を表示するサーマル・カメラ、同じく熱検知ではあるが温度差を疑似カラー表示するサーモグラフィー・カメラの二つに大別した。また、民間向け市場のみに特化した調査・分析とし、用途分類に関しては、サーマル・カメラを(1)車載(ナイトビジョンなど)、(2)防災・セキュリティー(夜間の侵入者監視など)、サーモグラフィー・カメラを(3)保守・保全(建築診断、設備診断、FAなど)、(4)医療(施設などでの発熱者検知など含む)、(5)研究開発・試験と大きく五つにカテゴライズして調査を実施した(表1)。

表1●非冷却遠赤外線カメラ用途別定義(TSRの資料)
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非冷却遠赤外線カメラ市場の現状

 前述の定義をベースとした現状の民間向け非冷却遠赤外線カメラ市場規模(ワールドワイド)を見ると2010年から2012年まで出荷数量ベースで30万台弱、金額ベースで23億米ドル程度の市場規模で横ばい推移している(図1)。用途別(2012年時点の数量ベース)では保守・保全が全体の57%、車載が18%、その後が防災・セキュリティー、研究開発・試験、医療と続く(図2)。また、民間向けの日本の同市場規模はわずか7000台弱程度にとどまっている。

 しかし、2012年後半から伸びに転じ、2013年から2015年にかけては対前年比10%前後の伸長を見せると予測する。この背景には、同市場でトップを走る米FLIR Systems社、設備診断向け大手の米Fluke社が、ハンディータイプのサーモグラフィー・カメラを発売、当初10万円を切る価格帯で市場投入したことがある。これにより、新興国でもサーモグラフィー・カメラを簡易的な設備診断向けに活用していく流れが生まれ、欧米のみならず新興国にもマーケットが拡大する引き金となった。また、既存のローエンド品ユーザーが先々はミドルレンジ品ユーザーへと転じる可能性を秘めている点も期待されている。

図1●非冷却遠赤外線カメラ市場の現状と今後の流れ(TSRの資料)
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図2●非冷却遠赤外線カメラのアプリケーション別市場動向(TSRの資料)
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非冷却遠赤外線カメラ市場の中期展望

 2016~2018年までの中期トレンドとして、TSRでは年平均成長率62%増と強気に見通している。この背景にあるのは「車載」である。現状でも既にドイツBMW社、ドイツAudi社など欧米の高級車の上位車種ではナイトビジョン・システムとしてサーマル・カメラが搭載されているが、欧州のEuro-NCAP(European New Car Assessment Programme:ポイント加算による保険優遇措置制度)が起爆剤になって欧州向けの車種からサーマル・カメラの搭載が一気に拡大してくる可能性が高まっている。2013年の自動車の世界新車販売台数は8100万台、このうち欧州市場向けは20%強を占め、上位車種から搭載されたとしてもその数量規模は100万~200万台程度となることが見込まれる。

 Euro-NCAPでは、2016年にAEBS(Advanced Emergency Braking System:先進緊急ブレーキ・システム)とPD(Pedestrian Detection:歩行者検知)をポイント加算対象にすることを正式にアナウンスしており、1~2年遅れで夜間走行時のAEBS+PDもポイント加算対象となることが濃厚視されている。ポイント加算対象の機能を多く搭載するほどポイント数が増加し保険優遇措置率も高まることから、各自動車メーカーがこうした機能を満たす製品を搭載する流れに転じてくる。ここで夜間走行時のPDという意味でサーマル・カメラが有望視されているのである。

 車載用ナイトビジョン向けとしては、近赤外線カメラとサーマル・カメラの両タイプが既に搭載事例として存在する。現状ではワールドワイドにおける搭載数量も2012年時点で約5万台、2013年も約6万台程度にとどまっていることから、いずれのタイプであっても課題が指摘されることは少ない状況にある。しかし、搭載車種が拡大してきた場合には、近赤外線カメラにおいては、(a)投光機同士のハレーション問題(人がホワイトアウトして見えない)、(b)フロント・ガラスの近赤外線カット・ガラスへのシフト、(c)光源の届く範囲までの検知距離、(d)背景画像ノイズの多さなどの課題がボトルネックになることが予想される。サーマル・カメラは夜間時の人体検出精度の高さでは圧倒的に秀でていることから、先々は日中の視認用に近赤外線カメラ(もしくは可視光カメラ)、夜間の歩行者・動物検出用にサーマル・カメラ、ブレーキ制御用にレーダなど複数製品を搭載し、ECUで一括処理を行う流れが強まる可能性がある。

 このシナリオの実現に向け、サーマル・カメラの価格(純正オプション価格)を現状の25万円前後から10万円を切る価格帯へと近づけるべく、センサ、レンズなどの部材メーカーを含めた技術革新が急ピッチで進められている(表2)。また、日本勢も含めた新規参入組への期待も高まっている。

表2●非冷却遠赤外線カメラの部材別トレンド(TSRの資料)
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