ベンチャー企業が大企業に技術を売り込む際に、ベンチャー経営者1人に対して、大企業側は関係各部署の部長や課長が10人も並んで取調室のよう。そのあげく、「面白い技術だから時々話を聞かせてよ」、外国のベンチャーになら「Keep in touch」で終わってしまう。これは、日本の大企業でしばしば見かける光景だと思います。一方、外国企業ならば、大企業でもベンチャー企業と会って、決断する人は一人か二人。自ずと判断のスピードが違ってきます。

 日本の大企業、総合電機メーカーといえども、一社で全ての技術開発を行うことは困難になってきています。大学やベンチャー企業など、会社外部のリソースとの協力、オープン・イノベーションが必要なことは、誰でも認識していることでしょう。しかし、実際の日本の大企業は、技術の自前主義からなかなか脱皮できていない。大企業と、大学やベンチャー企業との連携はいまだに限定的ではないでしょうか。

 先週、名古屋で開催されたSSDM(International Conference on. Solid State Devices and Materials)という国際会議で象徴的なことがありました。次世代のメモリとして注目を集めているReRAMあるいはRRAM(抵抗変化型メモリ)は10nsと、現在SSDとして商品化されているフラッシュ・メモリよりも5ケタも高速、動作電圧は20Vから2Vまで低電圧化が可能で、しかも製造も簡単な夢のメモリと言われています。

 しかし、ReRAMが動作する物理的なメカニズムや最適な物質の構成は、まだ明らかになっていません。世界中の研究者が試行錯誤をしながら基礎的な研究を行っている段階で、大企業だけでなく、大学や国の研究機関、ベンチャー企業も研究を担っています。

 SSDMでのReRAMに関する16件の発表の中で、日本は私たち、東大の1件だけ。台湾の大学や国立研究所から6件、韓国の大学から4件、アメリカと中国の大学からそれぞれ2件、ヨーロッパの大学から1件の発表が行われました。実は、学会前には、福島第一原発の事故と放射能への懸念から、外国からの論文投稿が減るのではないか、と心配されていました。実際は、台湾・韓国の大学の勢いに日本は圧倒されました。

 ReRAMはシャープが2000年代初頭に、アメリカの大学と共同で世界で初めて動作を実証したデバイス、日本が研究開発の老舗です。余談ですが、ReRAMは一般的な言葉ですが、シャープは研究で先行するだけでなく、RRAMという登録商標を取得しました。このReRAM(RRAM)の研究に関して、今では日本が韓国や台湾に圧倒されつつあるのは、カラクリがあります。

 ReRAMはナノテクノロジーの一種で、数10nm(1nmは1mの10億分の1)程度の非常に小さいサイズに素子を加工する必要があります。微細加工には、最先端の液浸露光装置は数十億円、クリーンルームの建設にはさらに1~2ケタ巨額な資金が必要で、大学単独での研究は、事実上不可能です。大学がReRAMの研究を進め、学会で発表するには、企業との共同研究が必要なのです。実際に、東大の研究発表もシャープなど企業との共同研究の成果で、企業に微細加工した半導体のチップを提供して頂いています。

 台湾や韓国の大学の論文の発表には、共著者や謝辞の中に、Samsung Electronics社、TSMC社などの大企業の名前がありました。大学単独ではなく、企業との共同研究の成果であることは明らかです。むしろ、大企業の最先端の研究を、積極的に大学が担っていると言えると思います。韓国や台湾でも、国立の大学や研究所は主に税金で運営されていますから、大学を通じて国が大企業の研究開発を支援している。また、大企業の先端技術の開発に学生というリソースを活用しているとも言えます。