「電化」によって素材が変わる

 今後、世界的なテーマが「サスティナビリティ」となり、自動車の最重要課題は「資源やエネルギーをどのように持続させるか」へと変わっていく。社会環境やエネルギーの変化に伴い、自動車に関連するあらゆる材料も大きく変化するだろう。

 モーターはエンジンのように高熱を発しないため、自動車の材料として「有機物」が使いやすくなる。一般にポリマーなどの有機物は金属と比較すれば軽量なので、これを多様化することで燃費(電力消費量)や航続距離を改善することができる。これらの改善は、搭載する2次電池の容量を小さくすることにつながり、部品コストの軽減はもちろん、車重をさらに軽くするという好循環も生み出す。

 数ある有機物のなかで筆者が注目しているのはCFRP(炭素繊維複合材料)である。CFRPは鉄の約10倍の強度を持ちながらも、重さは鉄の1/4程度。加工の自由度が金属よりはるかに高いのも特徴である。地下資源に依存せず拡大再生産できるというメリットもある。CFRPを展開する代表的なメーカーは、東レ、東邦テナックス(帝人グループ)、三菱レーヨンの3社である。世界市場に占めるシェアは非常に高く、日本の独壇場となっている。

 有機物と並んで、軽量なアルミニウムを構造材として積極的に使う動きも活発になるだろう。使用済みアルミニウムの循環を確実に遂行すれば、「自動車の軽量化」と「資源消費量の抑制」の両立が実現できる。さらに、金属やプラスチックを代替する物質として、ナノカーボンにも注目すべきだろう。近年では、化学的性質や電導性などの異なる様々なタイプが次々と見つかっている。

パーソナル・モビリティーの台頭

 先進国では、核家族化や都市集中、環境意識の高まり、燃料費の高騰などを背景に、小型の乗り物が求められるようになっていく。移動の足が主に二輪車である新興国でも、二輪車と四輪車の中間に位置するような、新しいタイプの自動車のニーズが高まるだろう。小型な電動モビリティーが「パーソナル・カー」として、これからの先進国と新興国の両方で主役になると予測する。

 先進国で「積極的に小さい自動車に乗る」という新しい価値観が台頭する。コストが安いから小さなクルマを選ぶのではなく、「デカいクルマはダサい」から小さいものを選ぶのである。このとき重要なのは、「小さくても安っぽくないこと」だ。単なるコストダウン優先の設計思想では、先進国市場で成功を収めることはできないだろう。

 EVの構造は非常にシンプルなため、エンジン車と比べて構造上の制約は非常に少なくなる。ボンネットや燃料タンク、排気ガスの浄化装置などは必要なくなる。インホイール・モーターなら、車体の中央を貫くドライブシャフトも不要になる。このため、内装は従来と大きく変わる。従来では考えられなかったような、扱いやすく、斬新なデザインの乗り物が次々に生まれることだろう。

 動力がモーターになることで、究極的にはタイヤを装備しない二足歩行や四足歩行の乗り物も「自動車」の範疇に入ってくる。自動車とロボットのどちらにも分類できないような、新しいタイプのパーソナル・モビリティーも登場するだろう。そうして、20世紀型の自動車の概念が様変わりすると同時に、事業領域も、建設、医療、軍事分野、あるいはエンターテインメント性を含んだ新しい分野などへと、大きく広がっていく。

「自動車サービス産業」へ

 自動車の維持にはお金がかかり、駐車場の確保も容易ではない。その一方で、積極的にお金や時間を使いたいものはほかにもたくさん溢れている。周囲に魅力的なものが増えてきたことで、自動車の求心力は相対的に弱まり、そのことがいわゆる「クルマ離れ」の一因になっている。

 だがこれからは、ワイヤレスのブロードバンド接続が新しい社会の前提となる。車内の端末でクラウド・ネットワークから提供される様々なサービスを利用したり、映像や音声といったコンテンツを楽しんだりすることができるようになる。運転すること自体や車内空間の魅力が増強され、走る以外の部分に大きな価値をもつ存在になっていくはずだ。

 自動車産業という側面からみると、先進国は新興国と同じ土俵でコスト競争を続けても、「利益なき繁忙」があるだけで勝算は見込めない。さらにEVが主流になれば、「乗り味」や「走り」といったモノの部分だけでは差異化がますます難しくなっていく。資源ナショナリズムが激化すれば、いっそう「数で勝負するビジネス」は厳しさを増す。

 社会を持続可能にするためには、今までのように3~5年で自動車を買い換えるということは続けられなくなる。先進国だけでなく、中国やインドでも同じように短期間で買い換えるようになれば、たちまちエネルギーと資源の両面で限界に達することは明らかだからだ。

 このことは、自動車ビジネスを物販というビジネスモデルの枠内でとらえることの限界を示している。クルマを買ってもらったらそれで終わり、ではなく、買ってもらった後もサービスで利益を出していくというモデルへの転換が迫られることになるだろう。すなわち、「自動車というハード」と「サービスというソフト」が融合した「自動車サービス産業」への転換である。

 これが、新興国との競争における差異化のポイントになるはずだ。インフラが整わない新興国は、ソフトウエア・ビジネスの分野で先進国のマネをすることが難しいからである。「走り」の面で違いが出しにくいEVにおいても、サービスでは他社との差異化が図られるようになる。資源やエネルギーをじゃぶじゃぶ消費し続けることはできなくても、ソフトウエアなら際限なく作り続けることができるのである。

 自動車のサービス化とともに形成されていくネットワークは巨大で、新たな産業が一つできるほどの影響力を持つようになる。現在、日本で走っている乗用車(約6000万台)だけで考えてみても、仮にその半数が月額3000円の通信料を支払うとすれば、それだけで1兆円規模の市場が生まれるのである。さらに、そのネットワーク上で様々なサービスを利用したり、Eコマース(電子商取引)などの決済が行われたりすれば、市場規模はあっという間に数兆円まで膨れ上がるだろう。

 米国ではすでに自動車向けのサービスが浸透している。ゼネラルモーターズ社のオンスターは盗難対策やキーロックの遠隔解除、事故対応などのメニューが用意されており、500万人以上が加入しているといわれる。2011年2月には、娯楽要素を盛り込んだ「マイリンク」というサービスの提供も発表した。

田中 栄 (たなか さかえ)
アクアビット 代表取締役 チーフ・ビジネスプランナー
1990年、早稲田大学政治経済学部卒業。同年CSK入社、社長室所属。CSKグループ会長・故・大川功氏の下で事業計画の策定、業績評価など、実践的な経営管理を学ぶ。1993年マイクロソフト入社。WordおよびOfficeのマーケティング戦略を担当。1998年ビジネスプランナーとして日本法人の事業計画立案を統括。2002年12月に同社を退社後、2003年2月アクアビットを設立し、代表取締役に就任。主な著書「未来予測レポート2011-2025(全産業編)」「未来予測レポート エレクトロニクス産業 2011-2025」「未来予測レポート 自動車産業 2011-2025」「未来予測レポート エネルギー産業 2011-2025」「未来予測レポート2008-2020食の未来編」(日経BP社)など。北海道札幌市出身、1966年生まれ。
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