将来のビジネスモデルの転換は予想できません。企業を取り巻く環境によって最適なビジネスモデルは時々刻々と変わります。また、事業転換の決断をした経営者としても、100%の勝算があるわけではありません。

 HPのケースは、かつて買収したCompaqやPalmの再分離ですから、「買収してみたけど、上手くいかないから、前言撤回。やっぱりやめた」わけです。日本でも日立製作所がIBMのHDD部門を2003年に買収して日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)社を設立。今年になって、HGST社を米国のWestern Digitalに売却することになりました。

 二転三転、無責任にも見える経営判断に振り回されると、エンジニアとしては、文句のひとつも言いたいところですが、残念ながら現実は変えられません。

 こうした先が読めない視界不良の中で、エンジニアは技術のプロとして、ある技術分野を極める。そして、事業の形態、会社、業種が変わるかもしれないけれども、身に付けた技術を必要としてくれる、世界のどこかで生き残ることを目指すしかないのかもしれません。場合によっては、専門知識を活かしつつも、異分野に挑戦することも必要でしょう。いくつか例を挙げましょう。

 ロジックLSI・システムLSI業界では、事業の水平分業化が進みました。日本企業でもファブレス化が進み、半導体製品の企画、回路設計、販売は自社で行うものの、製造は台湾TSMC、UMCといった、半導体の製造を専門に行うファウンドリー企業に委託するようになりました。もはや、最先端のロジックLSIは日本で製造しないわけですから、先端デバイス開発のエンジニアの職が日本から減るのは必然です。

 でも、悪いことばかりではありません。ロジックLSIの先端デバイス開発のエンジニアは、製造業であるTSMCなどに移るだけでなく、QualcommやNVIDIA、Xilinxといった米国のファブレス設計企業にも移っています。米国のファブレス設計企業では、回路設計者が起業したこともあり、デバイスやプロセスを専門とするエンジニアは多くありません。

 ロジックLSI業界は水平分業化が進んだとはいえ、回路設計とデバイス・プロセスの作りこみ、刷り合わせは必要です。米国のファブレス設計企業では、ファウンドリー企業のデバイス・プロセスを熟知し、自社の回路設計に最適なデバイス・プロセスになるようにファウンドリー企業をコントロールするデバイスエンジニアが必要なのです。

 逆に、ファウンドリー企業では、顧客であるファブレス設計企業の要求に応えるために、顧客の回路を理解できる回路設計者を続々と雇用しています。現実のビジネスでは、ファブレス設計企業とファウンドリー企業は、お互いをコントロールしようとしています。相手の手の内を知るため、相手の専門分野を熟知するエンジニアを雇用しているわけです。