危機に際してリーダーがどのように行動するべきか。不確かな情報しかない混乱の中、誰も正解が分からない状況で、迅速に決断する。決断を直ちに実行に移す。顧客・社員・株主・国民など関係する人たちに情報を開示して説明責任を果たす。

 東日本大震災の余震は続いています。復興はまだまだこれから、原発事故は予断を許さない状況、電力事情も厳しい。日本中に難しい判断に迫られている多くのリーダーがいらっしゃることでしょう。ビジネススクールやMOTで学ぶことは財務・会計・経済学のような知識を基本にしたスキルだけではありません。ビジネススクールの授業の半分以上は、危機に際してリーダーがどのような行動を取るべきか、といったリーダーシップの教育にあてられます。今回のコラムでは危機のリーダーシップに関して紹介します。

 この4月1日に、乗員乗客123人を乗せたフェニックス発サクラメント行きの米サウスウエスト航空812便は、飛行中に客室の天井に穴があき、客室内の気圧が低下、緊急着陸するという事故がありました。サウスウエスト航空は米国の国内線に特化し徹底的なコスト削減により高い収益を確保していることで有名な格安航空会社です。米国では、ユナイテッド航空、デルタ航空、ノースウエスト航空といった大手航空会社の経営破綻が相次ぎました。そんな中、サウスウエスト航空は米国で最も優良で安全な航空会社と考えられてきました。効率的な運航やサービスの良さが気に入って私も米国滞在中は大変良く利用していました。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、サウスウエスト航空は事故直後に機材の検査歴を確認した結果、検査が正しく行われており、事故の原因は見当たらない。機材を製造したボーイング社、米国規制当局による事故の原因調査では、前例の無い想定外の事故のため原因がいつ明らかになるかわからない、としています。混沌とした状況が続く中、事故が起こった翌4月2日に、サウスウエスト航空は事故が発生した機材と同じ全ての737型の数十機の運航停止を決定しました。

 通常であれば、規制当局や航空会社からの事故に関する報告や行政指導に基づいて航空会社は運航停止を決めるものです。予想外の事故だったためにボーイングは原因を究明できず、規制当局もどのような行政指導を行うべきか判断できない中で、サウスウエスト航空は、自主的な点検のために直ちに数百便の欠航や数千便の遅延に踏み切りました。その後、事故の原因調査が進んだ結果、技術的な問題があったことをボーイング社が認めました。サウスウエスト航空の迅速な決断により、乗客の不安は解消され、混乱は回避されました。

 この事故は、長年にわたって築き上げてきた「信頼できる理想的な航空会社」というサウスウエスト航空の信用を一気に落としかねない危機的な状況でもありました。サウスウエスト航空にとっては、大規模な欠航や遅延という決断は経済的には大きな損失だったと思いますが、目先の収益よりは安全を重視する決断をし、直ちに実行に移した結果、信用できる会社としての評価を保つことができました。まさに「人間万事塞翁が馬」ですね。

 もうひとつ、ジョンソン&ジョンソン社(以下、J&J)のタイレノール事件を紹介します。タイレノール事件はビジネススクールのケーススタディでは必ず取り上げられる有名な事例ですので、ご存知の方も多いでしょう。1982年9月、シカゴでJ&J社の頭痛薬タイレノールを服用した7人が死亡しました。タイレノールへの毒物混入が疑われました。J&J社は事件発生直後の「商品に疑いがある」という時点で直ちに全製品の製造・販売の中止を決定しました。そして、販売チャネルだけでなくテレビ・ラジオ・新聞などあらゆるメディアを通じて市場に出ている全商品の回収を呼びかけました。毒物混入に関してJ&J社を疑う声も当然あったわけですが、製品や工場の情報を積極的に開示し、事件調査機関を積極的に受け入れるなど、J&J社は透明性の高い取り組みを行いました。同時に、外部からの異物の混入を防ぐ薬のパッケージの開発を行うことで、消費者にとって安全で安心な薬を開発することに成功しました。後の調査で毒物はJ&J社の工場ではなく、店頭で何者かによってタイレノールに混入されたことが明らかになりました。毒物混入の原因がわからない時点での全品回収、というJ&J社の決断は「消費者を第一に考える企業」として事件後はかえって企業イメージを高める結果になりました。