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大西清右衛門の工房には手作りの工程を多く残した工房のみが持つ、独特の親密感のある空気が流れる。
大西清右衛門の工房には手作りの工程を多く残した工房のみが持つ、独特の親密感のある空気が流れる。

 大西清右衛門(おおにしせいうえもん)の工房は、京都の三条釜座(さんじょうかまんざ)にある大西清右衛門美術館の奥に隣接する。工房へと続くドアを開け、鉄を溶解させるための炉が置かれたスペースを通り抜けて引き戸を開けると、目の前に工房の全景が広がる。

 まず目に入ってくるのは、うず高く積まれた、使い終わった鋳型の数々だ。目を転じると、片側の壁には、代々受け継がれてきた木型がずらりと置かれた棚が置かれている。奥の大きな室(むろ)の手前にあるテーブルには、完成間近の釜がいくつか置かれ、高い天井からのあかりに照らされて鈍く光っている。

 室の前で、職人が作業に没頭している。釜の肌に塗った弁柄(べんがら:酸化鉄が主成分の赤い顔料)と煤(すす)を混ぜた下塗りの乾き具合を確かめているようだ。工程の主要部分は、文字通り手仕事。頼れるのはおのれの五感と道具類だけである。

 大西は、その伝統的な方法を踏襲し、工程も一切省かず、昔ながらの方法で釜を製作する。だから、そもそも数がこなせない。そのうえ大西には、創作者としての強烈な思いがある。だから、構想にもじっくり時間と手間をかける。結果として、釜の作り手としては、極めて寡作にならざるを得ない。

「一つの釜ができるまでに1年は欲しい。新しいものを作ろうとすると、鐶付(かんつき)の造形を考えるだけでもすぐに3カ月くらい過ぎてしまうんで」

 もちろんいくつかの仕事を同時進行で行うため、実際に出来る数は年間1点のみ、という訳ではない。けれども、デザインを一から起こす新作釜ともなると、実際に手を動かす以外の時間を含む制作期間は1年では納まりきらないことも多いようだ。大西家は、代々施主の好みにあった釜をオーダーメイドで作ってきた。当然、様々な注文に細かく対応しなければならない。現在の当主である大西の作る釜には、完全な新作から写し(既存作に倣って新たに作成した作品)に至るまで様々な種類があるが、いずれも施主たちの注文を聞き、時には彼らが送ってきたスケッチをもとにして、デザインを起こし、装飾を考え、一つずつ作る。量産とは無縁なスタイルなのである。

「手を使った工程が多く入っている方が、表現に広がりが出るし、意匠にしても、こうしたら全体が引き締まるとか、細かなアレンジを入れることもできる。それをやることが、使う人に合わせた釜を作るゆうことやと思うしね」

 何十にも及ぶ工程がある釜作りには、デザインの他にも、鉄を扱う鋳物師(いもじ)としての作業、さらに彫金、鍛金などの工程など、分野の違う技術が必要とされるものがいくつも含まれる。大西たちはそれらのほとんどすべてを他に任せることなく自分たちでこなす。