図7

 たかが紐。だからといっておろそかにはできない。その紐を使って床の間の釘などに掛けるわけだから、掛軸にとってはまさに命綱である。よもやそれが切れたり、結び目が解けたりするようなことがあってはならない。

 もちろん、それは基本の基本である。実はその細い紐が、掛軸が巻かれた状態では外観上の大きなポイントになるということも、忘れてはならない。例えばある人がある掛軸に出合う。その、巻かれた状態の掛軸をみて、まだ見ぬ本紙に思いを馳せる。その姿がよければ中身への期待も高まるだろうし、違和感を抱けば、淡い疑念を抱きながら掛軸を広げることになるかもしれない。

図8

 「いい姿」に仕上げるポイントは、掛軸の形式や裂の選択とまったく変わらない。例えば、軸本体の寸法を考慮して紐の太さを決める。大きな掛軸に細い紐では何だか心細いが、太すぎれば野暮になる。ただ難しいのは、本紙と紐との「時代合わせ」である。裂の場合は、本紙が古いものであれば、その時代に応じて古い裂を使えばよい。けれども紐の場合は強度の問題があり、古い紐は使いにくい。そこで、数ある市販の紐の中から、時代を感じさせる色彩・質感のものを選ぶことになる。

 北岡は、ここでもさらに一工夫を凝らす。市販の紐に自身で染めを加えるのである。ただ全体を均一に染めるのではない。淡く、しかもある程度のムラが出るように染める。こうして、「新品だけれどもどこか時代を感じる」紐を、自家製作するのである。

図9

 ただ、こうした多種多様な紐を事前に準備しておくのは段取りのうち。作業は一瞬の滞りもなく、流れるように続く。巻緒は自在に動くよう、片方の端を掛緒に通して輪にし、縫い止める。紐の切り端の小口を開き、ほつれ止めのための「糊止め」を施す。こうして気が付けば1幅の掛軸が完成している。

 修業時代、仕事が速いと言われたことがあった。生来の性質かもしれないが、自分でも段取りはいい方だと思っている。独立して間がないころにかなりの仕事が集中しても、何とか一人で仕事をこなせてきた。経験40年の今なら、最後の仮張りから外して仕上げるまで、多くの表具師が費やす時間の半分ほどで仕上げることができるという自負もある。もちろん一切の手抜き、品質低下はなく。