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 接着力が弱いから、何枚もの紙を貼り合わせても紙本来のしなやかさが失われない。もし、新糊をたっぷり塗って裏打ちをすれば、かんたんにしっかり接着できるだろう。しかし、糊で固めたワイシャツの襟のように、柔軟さを失い固くなってしまう。それではうまく巻けないし、無理に巻けば折れが生じる。しかも、一度巻いてしまえば「巻きグセ」がとれず、床の間に掛けてもぴたっと平らにはならない。

 もう一つの理由は、弱い糊を使えば剥がれやすくできるということである。剥がれやすさは修理を容易にするということに通じる。この剥がれやすさは、「適切な周期で表装をし直すことで本紙に永遠の生命を与える」という表具の使命からすれば、欠かせない要素といえるだろう。

 この古糊は「腐糊(くさりのり)」の名で江戸時代の元禄期の文献にもみえ、実際に使われ始めたのはそれ以前からとされる。日本の書画が100年、200年と時代を超えて受け継がれてきたのは、この古糊を使った独特の「必要があれば剥がすことができる接着法」に負うところが大きい。

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 ただ、この表具にとって極めて重要な材料である古糊を作るには、気が遠くなるほどの年月が必要になる。このため京表具の店ではかつて、弟子が独立する際には、師匠が古糊を持たせてやるという習わしがあったのだという。その糊は、ちょうど弟子が入門したころに仕込んだもの。ほぼ10年間の修業で弟子はすっかり技を身に付け、同じ時間を経て新糊は立派な古糊になる。弟子はそれを持って独立するというわけだ。

 ただ、こういった風習も今では珍しいものになってしまったらしい。そもそも古糊を使わないという表装の方法も出現しているようだ。すでに昭和30年代には、古糊の特徴を生かした表具用の化学糊が登場している。これを使えば制作時間を短縮でき、湿度の高い空間でも安定した表装に仕上げることができる。だが、年数がたつと硬化しやすく、修理に際して剥がれにくいという問題があった。最近はこの「剥がれにくさ」も改良されてきたようなので、もっと採用が広がるかもしれない。

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 さらに、水溶性の糊をまったく使わない、極めて簡易な表装の手法も多く使われるようになってきた。「機械表装」と呼ばれる手法である。

 糊を使う方法を「湿式」とするなら「乾式」とでも呼ぶべき手法で、一般に接着剤には熱可塑性の樹脂を使う。原理は、アイロンでTシャツなどに貼りつけるアップリケと同じである。裏打ち紙や裂などに熱可塑性の接着剤を塗布し、プレス機で熱圧着して接着する。水を使わないので、塗らして乾かしてしばらく寝かせて、という手間も日数もかからない。当然、コストも抑えられ、裂などに凝らなければ、通常の手仕事による表具と比べて1/10といった値段で表装ができる。