図4

 そんな刷毛も種々準備され、いよいよ作業が始まる。まずは、仮張り用の板に張り付けてあった上下の裂を、端から竹べらを差し込んで周囲の張り代の部分から剥がすようにして外していく。同様に中廻し(ちゅうまわし)、上下の裂、続けて本紙も外す。

 次は裁断である。「付け廻す」方の端、すなわち糊代(のりしろ)になる側を裁っていく。

 まずは寸法出しである。あらかじめ決めておいた寸法通りになるよう尺差しで測り、「星突き」と呼ぶ目打ち状の道具で小さな穴を開けていく。これを印とし、印と印に木の定木をあてがって庖丁で切っていくのである。本紙であれば紙の縦横の目と作品が真っすぐになっているかどうか、裂地の場合は織り目の縦横が垂直に通っているかどうかが重要なポイントになる。定木を置き、その定木を包丁の尻でコンコンと叩きながら微調整をし、裁断すべき線を決める。その線の上を寸分外さず包丁が走る。こうして、一文字・中廻し・上下と、各部分が段取りよく裁断されていく。

図5

 裁断された裂地の端(木口)には、裂のほつれを防ぐための「糊止め」が糊刷毛で施される。裂と紙を貼り合わせただけの幅に、わずかばかりの糊を塗る作業だが、出来上がれば表に現れる部分だけに、これまた手が抜けない作業である。必要十分な量と均等さが肝心で、当然ながら付け残しや糊だれは許されない。

 北岡英芳は、それをいとも簡単そうに、アッという間に済ませてしまう。その手際のよさが長年の修業の成果なのだろう。こういった手仕事で、狂いなく作業がこなせることを、表具師たちは「手が決まる」という。刃物を使う時には、入れる角度がビシっと決まり、それゆえキッパリと切れる。このように手が決まれば、一つひとつの作業が効率よく進み、速く仕上がり、しかも仕立てが美しい。職人たちがみな目指すところだ。

「手が決まる」とは、迷いがなく狂いもない動作をいう。
「手が決まる」とは、迷いがなく狂いもない動作をいう。

 こうして、付け廻す裂地の準備が終わる。それら表具に用いる裂地はその昔、法衣や能衣装などをほどいてそれに充てたという。現在では、古い掛軸に使われている裂を再利用する場合も多い。このため、上下や中廻しなど、使用する部分によっては寸法が足りなくなったりする。その場合は、裂地を継ぎ合わせて使う。裁断した裂をぴったり合わせ、裏から「鎹(かすがい)」と呼ばれる細紙で継ぐのである。

 その技法もまた表具技術の一つとして伝えられてきたものだ。あくまでも継ぎ目を目立たせず、1枚の裂に見えるように継ぐ。文様も、意匠的な意図で継いだことを際立たせる場合を除き、連続しているように継ぐ。「織りがどうなっているか、裂の組織をよく見て継ぎ合わせることが大事」と、継ぎ終えた部分を透かすように見ながら北岡は言う。ここでも「倍率の高い」表具師の目が必要とされる。