親指側と下指側の組み合わせを決める。
親指側と下指側の組み合わせを決める。

 最後に定規を取り出して全体の寸法を測る。「1分(約3mm)以内」の誤差を確かめて、火造りが終了する。

「これで一丁あがりです」

 組み合わさった状態で置かれた親指側、下指側2枚の刃先は、ぴたりとそろっていた。軸同士がぎりぎりまで寄せられた、あか抜けた格好は長太郎独自のものだ。そして、下指側の軸が、指輪部分に向かって鋭く切り込む形状は、石塚もその系統に連なっている弥吉(やきち)一派独特のものである。

「なんでも、弥吉さんが、何かのはずみで打つところがずれてしまったらしいんです。しくじったと思ったのだけど、逆に具合が良くなったんですね。親父はそんな話はしてくれなかったんだけど、親父と仲が良かった兼吉さんの二代目が、うちに来るたびにそんなことを教えてくれたんですよ」

2枚の刃の組み合わせを決める「軸曲げ」の工程は、長太郎では原則として親方のみが行なってきた。
2枚の刃の組み合わせを決める「軸曲げ」の工程は、長太郎では原則として親方のみが行なってきた。

 切れ込んだくぼみの部分に人差し指を置けば、下指の指輪(しりん)から刃先に向かって、スムーズにラインが流れていく。姿良く、力の伝わり方も良い。弥吉をはじめとする日本の最初期の羅紗切り鋏鍛冶たちが舶来鋏の上に積み重ねていった改良は、効率的に小さな力で布地を切り分けていくことに集約された。

「弥吉さんは42才で亡くなるまでに、あそこまで作れた。本当にすごいと思いますね」

 遺された弥吉の鋏を見ると、刃の方に寄ったねじの位置など、現代まで残る改良点のいくつかがはっきりと現れている。

「やっぱり、お祖父さんの火造りってのがあります。これも大したものです。遺された鋏を見ていると、私なんか全然足もとにも及ばない」

 弥吉が編み出した形から余分な肉を取って洗練させ、完成形ともいえる姿に仕上げたのが初代長太郎たち弟子の世代だった。

「格好が違うんですね。私たちが見ればもうひと目でわかる。下指の丸め具合や、親指の格好。他とは違うんです」