石塚は、弟子たちが巣立った後は、近所で鋏作りをする兄弟子に先手を頼んでいた。火床の前に座る横座の石塚と、金床を挟んで正対する先手の兄弟子の息はぴったり合い、火造りも調子良く進んだ。しかし、その相棒も高齢を理由に先年、仕事をやめてしまった。けれど、後任はいない。そこで、石塚がひとり鎚を振るうことになった。できないことはないが、やはり不便を感じることが多い。

「一人でやると余分に叩かなければならない。本当はあまり刃の部分は叩き過ぎたくないんですが」

 叩いていると、どうしても柔かい地金が伸びてきて鋼を巻き込んでしまう。先手がいればそうなることを避けるべく、細かくコントロールした向こう鎚を振るうことが可能だ。しかし、一人でできることには限界がある。片手で押さえ、片手で鎚を振るうから力も弱まり、コントロールも悪くなる。結果的に、数多く鎚で鋼を叩くこととなる。石塚は、叩き過ぎることで鋼が脱炭し、刃物としての硬度が確保できなくなることを恐れているのだ。

金床の角を使って、下指側の軸の鋭い切り込みを形作る。
金床の角を使って、下指側の軸の鋭い切り込みを形作る。

「さっきも親指(部分)の穴を抜く時も何度か叩いたでしょ。あれだって、相棒がいれば、一発で抜けるんですけどね」

 哀しいかな。そう言って笑いながら石塚は鎚を振るい続ける。

 大まかなサイズに打ち延ばしてゆく「粗延ばし」「穂延べ」の工程を経ていくうちに、次第に刃の形が出来上がっていく。最後に柳葉の形に刃先を形作って穂延べが終了する。後の工程を楽にするため、この時点で幅や肉の厚みは完成品とほぼ同じにしている。

 次に来るのが「軸曲げ」と「軸寄せ」の工程だ。軸を曲げ、親指側と下指側がうまくすり合うように調整していく。長太郎では原則として親方のみが行なってきた、2枚の刃の組み合わせを決める大事な作業だ。

 石塚が鎚を振るい指輪と刃をつなぐ軸の部分を大きく曲げてゆく。ある程度角度が決まってからは、何度も両方の刃を組み合わせながら微調整を重ねる。そして、再び全体をやや低めの温度に赤めて叩いていく「ナラシ」を行なう。低温で鋼を叩き締めるこの工程で、刃の微妙なねじれである「オキ」も作っておく。