十分に赤めた鋼と地金を叩いて一気に鍛接を行なう。
十分に赤めた鋼と地金を叩いて一気に鍛接を行なう。

 熱で、鉄表面の酸化膜とともに、溶けた鍛接剤がオレンジ色の細かな塊となって飛び散る。酸化膜が取り除かれたその瞬間、高温になった地金と鋼が現れ、両者が接合される。鍛接のチャンスは1回だけ。高温にし過ぎた鋼は後の熱処理の際に刃物に適した組織に変化しにくくなる。火造りの工程で最も高温になる鍛接を何度もやることは、そのまま鋼の性能を落とすことに直結してしまう。だから一瞬で、しかも出来るだけ低い温度で的確に鉄どうしを接合させる。そこが鍛冶の腕の見せ所なのだ。

 鍛接の後は、少しずつ温度を下げながら、火造りと呼ばれる成形作業を進めていく。親指側と下指側を交互に火床から取り出して、鎚を振るっていく石塚が、ふと口を開く。

「相棒がいれば、もっと早いんですが」

 日本の鍛冶の火造り作業は、二人でやるのが基本だ。火床の前に座る「横座(よこざ)」の指示に従って「先手(さきて)」が向こう鎚を振るう。頭脳と手を人間同士で分担する格好で、手早く効率的に鉄を叩いて形を作っていった。太平洋戦争の前後には電動のスプリングハンマーが登場し、先手の代わりをするようになった。疲れを知らない機械は確かに便利な存在で、戦後急速に普及した。現在はスプリングハンマーが置かれていない鍛冶場を探す方が難しい。しかしながら長太郎の仕事場にスプリングハンマーはない。

次第に刃部分の形が火造られていく。
次第に刃部分の形が火造られていく。

「刃の部分に勾配がある鋏の火造りには使えないんです」

刃表部分は、峰から刃先に向かう途中で平坦だった面が傾斜して刃先へと至る、鎬(しのぎ)作りになっている。指からの力を効率よく刃先に伝えるこの造形を鋏に取り入れたことは、西洋鋏に日本で加えられた改良点の一つなのだ。ところがこの改良点が機械による製作を難しくしている。同じ鎬作りでも、刀剣の製作にはスプリングハンマーもよく使われる。けれど鋏は、機械のハンマーで微妙な傾斜を成形するには刃が小さすぎるのである。だから鋏鍛冶の仕事場では、昔と変わらず先手が向こう鎚を振るうことが珍しくなかった。