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組み紐の要領で「緒」を組む。絹糸を4本の束に分けた「四つ編み」だ。

 現在、真綿を入れた袋は時間をかけて馴染ませている最中だ。ただしその間、何もしないのではない。その間は「緒(お)」を組む作業にあてるのだ。

 友湖の机の後ろから、見慣れぬ木箱が登場した。何が始まるのか、と、ぽかんとしているこちらを尻目に、友湖本人は慣れた動作で、天井にあるフックに絹糸をかけ、木箱に腰をおろす。4本の絹糸は、組み紐用にあらかじめ束を組んだもの。その先に、四つの木の錘が付いている。絹糸は一つの束につき50本ほどの原糸を組んだもの。ちなみに原糸1本は50番のミシン糸ほどの細さだ。1束を四つ組にすると、原糸200本の太さの緒ができる。

 ひょいひょい、と4本の束をリズミカルに交差させながら、組み紐の作業が始まった。

「みなさん、三つ編みは馴染みがありますでしょうが、四つを編むのはなかなか難しいでしょう」

 確かにひと呼吸違っただけで、たちまちこんがらがってしまいそうだ。

「ですので、緒を組むときはリズムがとても大切なんですわ」

工房の天井には組み紐用のフックがあり、ここに糸をかけ、専用のウマに跨がって組んでいく。
組み紐用のウマの裏。年代モノだ。

 友湖は余裕の笑みだが、緒は一定のリズムで最後まで一気に組み上げないと目が揃わないのだという。いったん中断したら、もうそれで終わり。次から組み足そうとしても、決してかなわない。ゆえに来客があったり、電話があったりする昼間には向かない。集中力がとりわけ求められるので、緒を組む作業はたいてい、ひとり静かに仕事に向かえる夜、それも深夜に行うことが多いのだという。

 仕服の口で緒を通す「つがり」の糸も、自分で撚る。つがりは絹糸の原糸3本を1本に撚ったもの。糸が撚りきれる寸前まできりっと撚りあげると、緒の通りのよいつがりになる。

 仕服の本体となる裂(きれ)選びと同時に、緒とつがりの色をどう合わせるかには、袋師の美意識が現れる。今回、友湖が選んだ色は、深みのある赤紫。渋い光沢のある緑色の定家緞子(どんす)に合わせると、意外なほどの華やぎが漂う。侘びた雰囲気をそこなうことなく、はっと目を見張るような彩り。そこには、まさに取り合わせの妙がある。

「ああ、美しいですねえ!」

 と、思わず声が出る。かたわらの友湖も満足そうにうなづく。

 しかし、ここまで工程を進め、いざ、緒を通す段になって、「自分として、これはあかん」と、すべてをゼロに戻すこともあるのだという。

「仕服作りの途中から、もしかしてこれはよくならん、という予感が湧いてくることがあります。ただ、進めてみないとその先もわからないのです。よくならんという不安と、何とか逆転できるという気持ちとのせめぎあいが、いつもあります」