「木地固め」作業。
挽き上がった欅(ケヤキ)の椀木地。
「木地固め」後の乾いた状態。

 この作業は通常、精漆工場で行う。しかし本間は、茨城の奥久慈工房で昔ながらの手作業で進める。近年、この仕事を担当するようになったのは長男の重隆である。夏の気温が高い晴天の日を選び、天日でクロメる。こうした作業を手グロメと呼ぶ。気温が低いときは、室内でストーブを焚きながらクロメていく。

 手グロメには、直径が人の身長ほどもある浅い専用の桶を使う。この桶を斜めに立てかけて漆を入れ、大きな箆(へら)で漆を丹念に掻き上げていく。漆が桶の底板を伝って落ちていく間に、少しずつ水分が蒸発していく。この作業を延々と続けながら、流れる漆の粘度や色の変化を観察し、ときおりガラス板に漆を塗って状態を確かめつつ終点を探る。

 ナヤシの前後に鉄粉や水酸化鉄を投入してクロメたものが黒漆である。その他の色の漆は色漆と呼ばれるが、それらは透き漆に顔料を混ぜたもの。その代表例が朱色の朱漆で、古くは辰砂(しんしゃ)と呼ぶ鉱物から採取したが、現在は硫化水銀から作った顔料を混ぜる。太古の昔から尊重されてきた伝統色である。同じ赤系でも赤茶色の漆は区別して弁柄(べんがら)漆と呼ぶ。やはり古くから使われてきた弁柄(酸化第二鉄)を顔料として混ぜている。

 黄漆(おうしつ)は石黄(せきおう)と呼ぶ鉱物顔料を混ぜた黄色系の漆で、これに黒漆を混ぜると緑色系の漆ができ、これを青漆(せいしつ)と呼ぶ。他の天然顔料と黒目漆を練り合わせても顔料には金属成分が含まれることが多く、黒変したり乾かなくなったりする場合が多い。一般的にはこれらの色しか出ないとされてきた。ところが現代では、あらゆる色の漆が存在する。近代になって、化学顔料が使えるようになったためである。

 こうして調製した漆が、いよいよ木地に塗られていく。この塗の作業は古来、塗師(ぬし・ぬりし)と呼ばれる職人たちが担当した。塗師も様々な塗る対象によって細かく分かれていた。棚や膳や椀を塗る道具塗師、茶道具や懐石道具を塗る茶器塗師、さらには武士の魂と言われた刀の鞘を手掛ける鞘塗師はその格式を誇った。

 下地から上塗の工程をきゅう漆とも言い、塗師はきゅう工とも呼ばれる。本間の工房では、本間と長男重隆がこの工程を担当する。