集められた樹液。これが精製されて漆となる。

 本間は以前から、漆は相当に高価なものであるにもかかわらず、産地も採取した人も場所も、何を混ぜてどのような処理をされているかも、もちろん成分内容も表示されずに取引されている現状に強い疑問を感じてきた。たから「壱木呂の会」が提供する漆には、採取の日時、天候、採取地、採取場所の条件、そして採取人の氏名まで明示する。そうすることによって作家に漆のことをもっと知ってもらい、同時に一定の需要を確保して漆掻きという職業を絶やさないための一助にしようと考えた。現在、奥久慈は岩手県浄法寺に次ぐ出荷量を誇る産地となっており、県を中心に漆での「町おこし」の準備にかかっている。

 こうした陰の努力があり、木の育成という10年以上に及ぶ気長な仕事があり、さらには漆掻きという過酷な作業があって、やっと漆は生み出される。いや、まだそれは樹液であって漆ですらない。工程という名のハードルは数知れず、漆器というゴールは目がくらむほど先にある。(文中敬称略)