それらの漆は、次のように呼ばれる。

・ 初辺漆(はつへんうるし)
採取時期は6月中旬~7月上旬。水分が多くて粘度が高く、乾きが速い。主に「拭き漆」、「蝋色磨き(ろいろみがき)」といった用途などに使う。

・ 盛辺漆(さかりへんうるし)
採取時期は初辺漆の採取後~8月下旬。年間で一番、葉や樹幹から水分が多く蒸発する時期に当たるため、樹液中の漆分が多く、サラサラしている。透明度は高い。下地には向かず、中塗り、上塗りに向く。

・ 遅辺漆(おそへんうるし)
採取時期は9月上旬~下旬。盛辺漆と同じように中塗り、上塗りに適するが、やや水分が多く、わずかに粘度が高い。乾きは盛辺漆より遅い。精製方法によっては艶の良い上塗りに向いた漆になる。下地には向かない。採取量は、盛辺と遅辺で全採取量の8割以上である。

・ 裏目漆(うらめうるし)
採取時期は10月上旬~10月中旬。それ以前に採取した辺漆を採り尽したこの時期には、まだ傷をつけていない裏(木の上の方)や、辺の間の傷を付けていないところからも漆を取る。これが裏目漆。下塗りなどに向く。辺漆に比べ水分が多いが、香りの良い漆だ。この裏目漆を採取するために付けた傷から翌朝吹きだす「あさみぞれ」(他地方ではメダレと呼ぶ)は、初辺漆や糊漆を混ぜて使うと強力な接着用の漆になる。

 漆採取の目的で3m程度の間隔で漆の木を植えた土地を、この地域では「漆畑」と呼ぶ。林ではなく畑なのだ。こうした畑以外にも漆の木は植えられる。代表的なのが、農家が畑の周囲などに植えたもの。掻き子は、こうした木を植わったまま農家から買い取り、漆を掻く。日照も土の養分も豊富なため木の生育が良く質の良い漆が採れる。1カ所に植えられた本数が少ない場合が多いため作業効率が悪くなるのが悩ましいところではあるのだが。

 掻き子が樹液の採取に使うのは、「漆桶」や「掻き鎌」、「掻き箆(かきべら)」といった道具である。「掻き鎌」の先端には、幹に溝を付けるためのU字形の刃と、その溝に細い傷を付けるための「メザシ」という刃が2つ付いている。「掻き箆」は細いパレットナイフ状の先端を反らせた鉄製の箆。これに加え、必要に応じて幹の樹皮を剥ぐ「皮剥鎌」や、高い所を掻く場合には梯子を使う。特殊な「掻き鎌」、「掻き箆」などのほか、「漆桶」や梯子類を、本間の工房では自作している。工房内には鍛冶仕事のための設備があり、木地を作るための刃物類も含め多くがここで、職人自身の手によって作られている。