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手足のみか腹をも使う

「中川木工芸 比良工房」制作の花入れ。

 桶は、かまぼこ板のような側板をぐるりと円筒状に組み合わせて箍(たが)で締め、底板をはめた構造になっている。この側板は原木から切り出すのだが、この工程が「木取り」で、手技の真価が問われる第一関門である。けれども、他の工程が楽かと言えば決してそうではない。実際桶作りは「手技の妙」を発揮すべき工程の連続、山場の連続なのである。

 「木取り」に続く、側板の大きさや厚み、曲率、断面の角度などを、作る桶の胴の径に合うように整えていく工程も、程度や加減を心得た熟練の職人にこそ委ねられるべき仕事といえるだろう。

 桶は意外と単純な形をしていない。ただ、四角四面のかまぼこ板をぐるりとつなげただけでは、板と板の間はすき間だらけ。どんどん水が流れ出てしまう。水が溜まらなければ桶は桶にあらず。桶であるには、外側も内側も板の端と端がぴったりとすき間なくくっついて円を成さなければならない。

 桶は丸い。丸いからこそ箍で締めるだけでキッチリと形を保つことができるのである。そのためには、側板は1枚ずつ、外側も内側もまっすぐではなく、ほんの少しずつ滑らかに丸みを帯びている必要があるのだ。しかもその丸みは、完成品となったときにきれいな円を描くように計算された丸みでなければならない。

 もっと大変なのは、桶が単純な円筒形ではないことだ。上に向かって口が広がった、円錐を逆さにして下部を取り払ったような形になっている。桶の直径は上部と下部で違うので、側板も当然ながら、上部と下部で微妙に曲率を変えなければならない。

 この、側板の外と内の丸みを作る工程をそれぞれ「外丸削り」「内丸削り」と呼ぶ。道具は「木取り」の割鎌から「銑(せん)」に持ち替える。この銑も割鎌と同様にゆるやかにカーブがかった刃物だが、割鎌と異なるのは刃の両端に持ち手がついていることだ。この部分を両手で握って腹部の方へ引き寄せるように動かして板の表面を削っていく。腹には分厚い腹当てを布紐で縛りつけ、そこに板を固定し、腹筋にぐっと力を入れておいて一気に銑を挽く。「手足だけでなく、腹だって立派な道具の一つですよ」と中川周士は笑う。