切らずに割って木を生かす

 もちろん、木の扱いづらさは、伸縮することにとどまらない。木目という厄介な存在がある。もっとミクロにみれば、繊維の方向性もある。特性を把握しつつ、その内の長所を引き出し、欠点を補い、材料を適材適所で使い切る工夫が必要なのである。その基本となるのが「木を読む」という作業だ。

 「木を読むという能力は、木をたくさん体験して知っていくことで身に付くものだと思います。どれくらい自分の経験値を踏まえられるのかというところでしょうか」

 木をどれくらい知っているのか。それがいかに大切なことであるかは、選んだ素材を「側板」と呼ばれる短冊形の板にしていく「木取り」の工程から思い知らされる。桶作りにおいては、木は鋸(のこ)では切らない。「割鎌」と呼ぶ道具を使ってまき割りのごとく打ち割るのである。湾曲した割鎌は桶作り特有の道具で「割鉈(わりなた)」とも呼ばれる。割鎌の曲がり具合が、測板の形を決める。作る桶の大きさによって同じような円弧状の側板でも円弧の直径が変るので、完成した桶のサイズに応じられるだけの種類を用意しておかなければならない。

 それを木材にあてがい、上から木槌で打って割る。特に力を入れている感じもしないのに、木はスパッときれいに割れていく。実に見ていて爽快だ。もちろん、熟練すればこの方が鋸を使うより効率的に作業ができるということもある。けれど、「割る」ことの意味はそれだけでない。木は、ストローのような細かい繊維が束になったものだと考えればよい。これを鋸などで強引に切れば、繊維も切れる。つまり、木の面に、繊維の断面、すなわちストローの口が露出したような状態になってしまうのだ。こうなれば、そこから水が材料の内部に浸透しやすくなり、そのことが桶の寿命を縮める原因にもなる。それを避け、繊維を切らずに繊維の輪郭に沿ってまっすぐ側板を取っていく。こうすることで、木材そのものの特性を生かし、水に強い構造を作り上げているのである。

技量の差はゴミの量でわかる

 木取りでは、まず「粗割り」で「樹心(じゅしん)」と「白太(しらた)」を外す。樹心はもっとも歳をとった部分で、年輪が細かく入っており堅い。逆に白太は樹皮に近い若い部分なのでやわらかく、水を多く吸収するため膨張率が高く腐りやすい。こうした桶には不向きな部分を外して、樹芯と白太の間の「赤身」と呼ばれる部分を取り出す。昔から、高価な注文品などは赤身だけを使って作るのだという。ただ、樹心も白太も、いつも同じように入っているのではなく、1本1本不規則に存在する。毎度違う木の「顔色」を瞬時に読み取り、割鎌を当てる向きや力の入れ具合を決めなければならない。

 「安定していて素直な木ばかりではないですね。割る向きによって激しく波打ったり、きれいに割れたりするものがあるんです。あっちから割るのとこっちから割るのとで違ったりしますしね。元々の木の性格もありますが、木によって乾き方も違う。だから割れ方も違ってくる。割れ方だけでなく、鉋(かんな)で削る時にも切れ味が変わったりします。それを事前に見抜いて割っていかなければならない。例えば、ギザギザにしか割れない木は、あとで鉋をかけて平らにすることを考えて厚めに割らなければならない。逆に、ほとんど鉋をかけなくていいほどキレイに割れる木を同じ厚さで割ってしまうと、材料のムダ使いになってしまう。そのあたりを見抜きつつ、木取りの厚みを変えていかなければいけないのです。それをどうやったらうまく読めるようになるか。結局は経験。何本の木を体験するかっていうことしかないんです」