「我々が何ゆえにデジタライゼーションの取り組みを進めているのか。そして我々のモチベーションについてお話ししたい」。日本郵船CIO(最高情報責任者)の丸山英聡専務は2019年7月10日、「IT Japan 2019」(日経BP社主催)の特別講演に登壇し、同社が10年越しで推進する「船舶IoT(インターネット・オブ・シングズ)」について説明した。

「IT Japan 2019」の特別講演に登壇した日本郵船CIOの丸山英聡専務
(撮影:井上 裕康)
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 同社の船舶IoT「SIMS(Ship Information Management System)」は、保有する約200隻の船舶のエンジンなどにIoT機器を取り付け、そこから集めたデータを衛星経由で送り、陸上の担当者が分析してトラブル予兆の有無などを確認する仕組みだ。このSIMSは日経コンピュータが主催する「IT Japan Award 2019」でグランプリを受賞しており、今回の講演は贈賞式に合わせて行われた。

 丸山専務はまず、SIMSなどデジタル化に取り組む背景として海運のコモディティー化といった経営環境の変化を挙げた。同社は2020年で135周年を迎える歴史の長い企業だ。環境変化に対応するには、「過去から蓄積した暗黙知やノウハウなどの資産をデジタル化することで有効活用し、これまで以上の安全運航と効率運航につなげていく必要がある」とした。

 それを具現化したのが船舶IoTの取り組みだ。2008年に構築したSIMS1では船舶の位置や方角、速度などの航海系データだけを集めていたが、2014年から利用しているSIMS2ではエンジンや発電機などの膨大なデータを集めて分析できるようにした。その結果、エンジンなどのトラブルの予兆をつかみ、適切に対処する予防保全などが可能になったという。

 丸山専務が強調したのは、デジタルだけでなくアナログの重要性についてだ。船内で発生した事象や過去から受け継いだ暗黙知などはアナログの情報だ。そうした膨大な情報を集めて整理するにはデジタル処理するしかない。だが、人が分析して何らかの判断を下せるようにするには、円グラフなど分かりやすい“アナログ情報”に戻さなければならない。「デジタルとアナログはデジタル化の両輪と捉えることが重要だ」と丸山専務は力を込めた。

 講演の最後では、SIMS2を構築する際に担当者がぼうぜんとなったエピソードも紹介した。IoTで取得するデータの名称が、エンジンや発電機などのメーカーごと、そして船舶が造られた造船所ごとに全部違ったのだ。例えば「1番シリンダーピストン冷却油出口温度」というデータだけで40パターンもあったという。担当者はそれらを800項目の標準名称と単位に整理した。そんな気の遠くなるような作業があったからこそ、船舶IoTの成功につながったとした。