ユーザーに責任があるのに、元請けベンダーの対応のあおりで深刻な進捗問題を抱えてしまった。コントロールしづらいステークホルダーには、複数のチャネルを駆使して対応する必要がある。問題が起こったときの責任の所在や対応方法を事前に合意しておく。

Before
要員をリリースしなきゃいけなくなる

「田村さあん」

 ソリューション営業部の大沢が、大きな声でプロジェクトマネジャー(PM)の田村玲奈の注意を引いた。玲奈は肩をびくりと震わせてから、振り返った。

 大沢は、営業担当者特有のなれなれしさを発揮して、そばの空いていた椅子に腰を落とした。

「カミヤシステムズさんの検収、まだなんだって?」

 カミヤシステムズは、今進めているニッケイ産業の人材管理システム再構築プロジェクトの元請けベンダーだ(図1)。玲奈は、顔をしかめてうなずいた。

図1●委託関係から生じた2つの問題
[画像のクリックで拡大表示]

「そうなんですよ。ニッケイ産業の人事部さんが採用業務のピークで、要件定義書のレビューを進められないとおっしゃっているらしくて」

「経理部も中間決算で忙しいらしいね」

「おかげで、仕訳伝票系のレビューも全然進んでいません」

「困ったねぇ。次工程の見積もりも出せないじゃない」

「それどころか、このままじゃ、要員をリリースしなきゃいけなくなりますよ。パートナー会社との契約も継続できないんですから。営業からも、カミヤシステムズさんに言ってください。ここのところ毎週、ニッケイ産業さん宛てに進展なしの進捗報告書を書く羽目になってるんですよ。遅れは先方のせいなのに…」

 大沢は、心底困った顔をした。

「言ってはいるんだけどねえ。ユーザーさんがOKを出さない以上、元請けとしても検収できないって言われちゃってさ」

 玲奈は、目玉をぐるりと回した。営業担当なのに大沢は人が良すぎる。お客が困っていると分かると、自社の立場を強く主張できなくなってしまうのだ。

 通りかかった柳川グループ長が、話に加わった。

「あらら。それって違法だよね」

 大沢が目を丸くする。

「えっ。今回、下請法の対象取引ではありませんが」

「うちの責任でもないのに検収を遅らせるのは、独占禁止法の精神に反してますよ。どうせ、検収が遅れれば支払いも遅れることになるんでしょう?」

「まあ、そうなんでしょうね。でも、カミヤさんも被害者なんです。ニッケイ産業さんが、忙しくてレビューできないってゴネてるんですから」

 柳川グループ長が、首をかしげた。

「うちの契約先はあくまでカミヤシステムズなんだからね。ニッケイ産業の事情で検収を遅らせるなんて、明らかにコンプライアンス違反ですよ、大沢さん」

 愕然とする大沢を置き去りにして、柳川グループ長は玲奈に顔を向けた。

「要員のリリースについて、カミヤシステムズの蔵元PMとは相談しているのかな?」

 問われた玲奈は、肩をすくめた。

「このままだといったん解散しなくちゃいけなくなるって言ったんですが、細々とでもいいから体制は維持してほしい、再アサインは時間がかかるからって」

 柳川グループ長は頭を振った。

「ちょっとひどすぎるね。だけど、いきなり法律論争に持ち込むものでもない。論争に勝つんじゃなくて、論争にならないようにすることが僕らの仕事なんだから。確か、今回のプロジェクトでは、当社はステアリングコミッティーにも出席していないんだよね?」

 玲奈はうなずいた。

「ステコミには、元請けベンダーのカミヤシステムズさんだけが出席しています」

「ほかに、ニッケイ産業さんと直接コンタクトできるチャネルはないの?」

 玲奈は、首を横に振った。

「プロジェクトのキックオフのときに、一度顔を合わせたくらいで。大沢さんもそうですよね」

 大沢は、力強くうなずいた。

「うん。それだけ。カミヤシステムズの事業部長さんとは、こないだもカラオケに行ったんですけどね」

 柳川グループ長は、少しあきれた顔をした。

「カラオケねぇ。ともかく、直接ユーザーをコントロールするとっかかりはないってことか。とりあえずは、カミヤシステムズさんとお話ししないとどうしようもないわけだね。これは、大沢さんの出番だな」

 大沢は、目をぱちくりさせた。

 玲奈さんは、ステークホルダーであるカミヤシステムズやニッケイ産業とのやり取りがうまくいかず、進捗問題を抱え込んでいます(図2)。この状態では、要員の待機コストばかりが垂れ流しになってしまいます。さて、柳川グループ長は、大沢さんに何をさせようというのでしょうか。これからどうすればいいのか、考えてみることにしましょう。

図2●ステークホルダー管理と進捗管理のトレードオフ
[画像のクリックで拡大表示]

この先は有料会員の登録が必要です。「日経SYSTEMS」定期購読者もログインしてお読みいただけます。有料会員(月額プラン)は初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら